■障害概念と診断システム

●乳幼児・小児・青年期精神障害の診断
栗田 広
 乳幼児・小児・青年期精神障害は、この時期に発症する障害と成人精神障害の若年発症型からなる。DSM―IVとICD―10は、ほぼ同様な単位障害と診断基準を有するが、多少の相違がある。子どもでは発達により症状が変化するので、診断に必要な典型的症状の把握には母親の情報が重要で、子どもの精神障害は成人期精神障害と関連がありうることの認識も必要である。欧米では多くの診断・スクリーニング尺度が開発されているが、わが国で有用な尺度の開発が待たれる。従来診断の意義はあるが、同時にDSM―IV/ICD―10診断も必要である。この時期の精神障害の診断での他職種との共同作業は、臨床・研究の発展に意義が大である。
Key words:child and adolescent psychiatry, diagnosis, DSM―IV, ICD―10, infant psychiatry

■治療法

●薬物療法
山崎 晃資
 児童精神科臨床の場面では薬物療法は重要な位置を占めている。しかし、多くの児童精神科医は、その精神薬理学的研究が未だ確立されていないために、薬物療法に対してある種のためらいを抱いてきた。しかし、最近は、AD/HDのmethylphenidate(Ritalin〓)療法に象徴されるような、安易ともいえる大胆な用い方が問題となっている。日本では、子どもを直接対象とした臨床試験を経て承認された向精神薬がほとんどなく、未承認の向精神薬を使用せざるをえない状況がある。そこで、未承認の向精神薬を子どもに使用する場合に留意しておかねばならないことがらについて検討した。そして、向精神薬の副作用、とくに子どもでみられるライ症候群についても述べた。さらに、児童精神科薬物療法の一般的指針として、1)標的症状・行動の同定、2)薬物の選択と薬用量の決定、3)インフォームド・コンセント、4)薬物療法のスケジュールの説明、5)行動評価と効果判定などについて述べた。
Key words:psychopharmacological treatment, ethical review, evaluation of effects
●精神療法
村瀬 嘉代子
 今日、精神的援助の技法は専門分化して、まことに百花繚乱の感がある。精神療法やカウンセリングは個人の心理的世界に働きかけるものとして、狭く捉えられることが多い。しかし、実際に個人の内面に影響を及ぼすのは、その個人の資質をはじめとして、家族、経済状態、地域環境、さらには文化、時代思潮などさまざまである。ことに重篤なクライエントや、問題が複雑である場合、治療効果をあげるには、必然的に内面的心理的働きかけと外面的環境調整、社会資源利用の総合的アプローチを考える統合的視点が、現実では求められている。
 ここでは時代の推移が人のこころのあり方に影響し変化をもたらしている面を考え、それに伴って、子どもの心理臨床に何が求められるかについて考えたい。
Key words:psychotherapy for children, family transfiguration, cooperation, sense of balance, multiphased and integrative approach
●行動療法
山上 敏子  大隈 紘子  瀬口 康昌  本村 啓介
 行動療法は、不安、抑うつ、怒りなどの日常的なストレスのコーピングや不安障害から、習癖異常、多動性障害など広範囲の発達・行動障害、摂食障害、薬物やアルコールなどの依存、虐待などの親子関係障害など広い範囲で効果的な治療方法を提案している。また、子どもの生活、社会技術の学習支援や家族や社会などの養育援助など障害の予防にも具体的な方法をもち効果をあげている。このような行動療法の適用と2、3の治療方法の概略を述べ、それらを構成しているプロトタイプ技法のいくつかを説明する。そのなかの一つである発達障害児の親訓練プログラムについて述べる。さらに、行動療法の治療のすすめ方の基本的なことがらを、子どもの治療で求められるところに則して、具体的・個別的、体験の重視、対処行動・問題解決の仕方の学習、生活・社会技術学習の方向、について述べる。
Key words:behavior therapy, childhood and adolescent mental disorders, cognitive‐behavioral procedures, parent training, way of treatment
●遊戯療法
山中 康裕
 遊戯療法とはplaytherapyからの訳語であるが、これがこう訳されたことは、プレイセラピーにとって必ずしもいい結果を齎さなかった。それは、セラピーにおけるplayが、必ずしも、「楽しいお遊び」などではないからだ。英語のplayには「遊戯」の他、「演奏」「演劇」「表現」など幾多の意味があり、この語は、それらすべてを包括する概念なのである。歴史的には、A・フロイトとM・クラインの論争以来、幾多の治療的内容に関わる論議がなされてきたが、アクスラインやムスターカス、ベッテルハイムやカルフ、ウィニコットなどを経てきた今、筆者は、これらいろいろな次元でのplaytherapyを統合して、6つの事例を挙げながら、遊戯療法について根本的と思われることについて論じた。すなわち、子どもの全的な生きかたのなかで、象徴的な表現が発動すれば、自然治癒への力が自ずからわき出てくるのである。また、言語との関わり、適応と禁忌についても言及した。
Key words:playtherapy, self‐healing, meaning of play

■検査法

●医学的検査
花田 雅憲  花田 一志  西村 恭昌  足利 竜一朗
 小児・思春期の精神神経疾患に対する医学的検査は年齢特有のものもあるが、成人と同様の検査を行うことも多い。その際、成人にとっては苦痛に感じないことでも子どもは苦痛に思うことがある。今回は小児・思春期の精神障害に対する医学的検査について、診察、問診から生理学的検査、画像検査などについて今後の展望を含めて簡単にまとめた。
Key words:informed consent, neurological examination, clinical examination, diagnostic radiology, physiologic examination
●子どもの臨床アセスメント:心理検査法
中田 洋二郎
 子どもの心理検査は、特定の疾患の診断や状態を評価するために開発されたチェックリストを含めると、その数は100を越えると言われる。この章でそのすべてを紹介することはとても不可能である。そこで、心理検査の臨床アセスメントにおける役割について述べ、また心理検査の客観性と有用性の問題の観点から整理し、心理検査を子どもに施行する際に留意すべきことがらについて述べる。また、以上のこととの関連で子どもの発達・知能・認知検査と投影法について具体的に説明する。なお本文で述べることができなかった主な子どもの心理検査を本稿の末に掲載した。
Key words:clinical assessment, children, psychological tests, norm‐referenced test, projective test

■治療形態・システム

●児童青年期の外来治療 
竹内 直樹
 児童青年期の外来治療の臨床的な留意事項を記した。成人の一般精神医療と重複する留意点も多いが、児童青年期精神科外来における特徴を述べた。また地域のニーズ、障害、年齢により、外来で求められる専門性や力点は異なる。子どもの問題は非医療の機関や領域でも扱われることがあり、狭義の医療ではなく包括的な医療が必要とされる。地域に開かれた医療、さらに子どもを中心にした重複的支援を展開するために、さまざまな日常的な配慮、他の機関との連携が必要であり、その意味で初診・初回面接は極めて重要である。子どもと真摯に出会うための、臨床的面接の心得をあげ、付き添う親や来院しない家族にも触れた。受診・相談による二次被害を避け、診断評価の手順が治療的に働くための技術、さらに継続治療の工夫を強調した。また外来での薬物療法を含めた問題にも触れた。
Key words:childhood, clinical interview, psychotherapy, outpatient, parent counselling
●デイケア
永井 洋子
 デイケアは日中の間に比較的長い時間かけて医学的・心理社会的治療を受ける形態をいう。本稿では、筆者がかかわってきた東大病院精神神経科小児部デイケアについて、まずその歴史を振りかえり、次に自閉症の発達の特徴を踏まえた認知発達治療、多職種によるチームアプローチ、家族援助の3つの柱についての重要性を指摘し、さらに治療教育の概略の内容を述べた。子どもの精神医学的デイケアは、家庭生活や地域生活を継続する中で、脳機能を射程にいれた濃密な治療計画と、家族に対する働きかけや関係機関との連携を考慮した総合的なプログラムを立てられる点に意義がある。また、デイケアの治療では行動や症状そのものの改善だけでなく、人間的な成長過程を作り上げる積極的な目標をもつことが可能である。デイケアを含めた認知・情緒・行動上の問題をもつ子どもへの専門的かかわりはますます重要性を増しているが、その発展を阻んでいるいくつかの要因について指摘した。
Key words:day care, child psychiatry, developmental disorders, autism, team approach, family support
●児童青年期の精神科入院治療
佐藤 泰三
 少子化・合計特殊出生率の減少にもかかわらず、児童青年期精神障害が増加していると思われる。この精神障害患者の中で、激しい精神症状、衝動行為、著しい陰性症状、症状が徐々に重篤化・長期化している患者、その他の入院医療が必要とされるケースが稀ならず見られる。このように、入院が必要な患者あるいは入院の現状、それらの疾病動向および児童青年期の発達過程の特徴、入院の適応、入院時の問題、治療計画および治療内容、チーム医療とその在り方、家族サポートおよび家族機能の向上教育との連携などを概略し、報告した。
Key words:child and adolescent, psychiatric inpatient, treatment
●小児科領域のリエゾン精神医学
佐藤 喜一郎
 小児科領域でのコンサルテーション・リエゾン精神医学は普及しているとはいえない。精神科領域でも、児童青年精神科医が少ないが、このうちコンサルテーション・リエゾンを行える医師はさらに少なく、小児科医からの要請に十分に応えるには時間も人数も足りない。小児科医でも精神医学的治療ができ、患者の強迫症状や興奮、行動化などにも対応できる医師は限られる。患児の家族の問題や家族内力動を理解して治療できる小児科医になるとさらに少ない。児童青年精神科医が近くにいず、いたとしても連携はとりにくい。児童青年精神科医が小児科領域に入っていき、コンサルテーション・リエゾンサービスを行わなければ、この領域の連携は拡がらず、深まらない。
Key words:liaison psychiatry, pediatric field, organ transplantation, psychiatric problems of children and adolescents

■精神保健

●乳幼児
栗田 広  長田 洋和
 乳幼児の精神保健をあつかう乳幼児精神保健学は、1970年代後半から発展してきた新しい学際的領域である。その対象は、乳幼児期に生じる精神障害のみならず、専門家の関与が必要な乳幼児の心理・行動的諸問題を含んでいる。対応の次元は予防医学的視点がとられ、方法論的には母子関係に力点を置いた心理社会的アプローチを主体とするが、個別事例への対応のみならず、多職種や関連機関の連携によるシステムとしての活動も重要である。またさまざまな実践的試みの意義や限界を明確にする事例研究や実証的研究が重要であり、今後、わが国では一層の発展が必要な領域である。
Key words:infant mental health, infant psychiatry, mental health
●学校精神保健
北村 陽英
 児童生徒を精神科で治療したり、学校において精神保健活動を行うにあたって、治療者が留意しておかねばならないこと、すなわち児童生徒は成長発達の途上にあることを述べ、教員からみた今日の児童生徒の精神保健上の問題の実情、教育相談(電話、来所)の現状、学校内で養護教諭が把握した児童生徒の精神保健問題の現状、精神科医師からみた高等学校生徒の精神保健問題の実情を紹介した。また、現行の教育制度の下で、学校教育関係者、特に養護教諭が児童生徒の精神保健上の問題に取り組まねばならない実情と、その学校教育関連法規上の法的根拠を拳げ、養護教諭による思春期以降の児童生徒を対象とした精神保健活動を紹介した。さらに、今日までに行われた学校精神保健活動の諸形態を紹介し、筆者等が1968年から行った学校精神保健活動(中学校)に触れ、学校精神保健活動の理想的なモデルの実現の可能性について言及した。
Key words:school mental health, child and adolescent psychiatry
●スクールカウンセリング
中野 明徳
 学校は児童生徒への健康教育、不適応行動の早期発見、早期介入といった精神保健活動に適している場である。学校精神保健を推進するには、学校の中で行う学校臨床が最も効果的であり、この学校臨床を担うのがスクールカウンセラー(SC)である。SCが行うスクールカウンセリングは、児童生徒へのカウンセリング、教師や保護者へのコンサルテーション、学校内外の相談体制を組織するコーディネーションが主要な活動である。わが国のSCは不登校、高校中退、いじめ、非行といった問題行動と、学業上の問題を扱える必要がある。スクールカウンセリングを効果的なものにするためには、SCが学校組織の中に定着し、学校教育相談体制を整えて教師や保護者との協同作業を行うことである。
Key words:school mental health, school counseling, school counselor, consultation, coordination
●家族
遠藤 幸彦
 児童思春期の患者の多くは家族とともに生活し、成長・発達をとげている。そして、家族はそれを構成する個人および社会との関連の中に存在する。したがって、家族の抱える問題とは、単に精神医学の枠内にとどまるものではない。
 その意味で、児童思春期の患者の治療においては、患者のみを対象として治療を行うことには限界がある。また、個人としての治療者が患者を含めた家族に対して果たしうる貢献にも限界があろう。すなわち、児童思春期の患者への対処にあたっては、家族への働きかけが不可欠であり、家族に対する多分野の専門家の共同作業による援助の果たす意義は大きい。
 以上をふまえて本稿では、精神保健における家族へのかかわりとして、臨床的な立場から親ガイダンスや社会的サポートなどの必要性について論じた。
Key words:family, psychosocial development, parents―guidance, case management
●ソーシャル・ケースワーク
藤井 和子
 児童精神保健に携わるケースワーカーは情緒面、発達面、行動面で、自分自身にあるいは家族の中で、学校で、地域で、何らかの不適応を呈している子ども、子どもたちをとりまく人々に心配をさせる子どもたちにアプローチする。したがって子どもをめぐる諸問題を扱うには子ども・親・家族・学校・地域社会を視野に入れた援助が不可欠である。子どもの心身の発達にとって最善の利益が提供されるよう、親とともに学校、近隣、地域、社会との接点に立ち、それぞれを繋げ、結ぶ役割を担うといえる。本稿では著者が経験した事例を通してソーシャル・ケースワークのプロセスについて述べたい。
Key words:social・case work, child and adolescent mental health, developmentel disorder, parents support

■精神遅滞

●精神遅滞
末光 茂
 用語としての精神遅滞、精神薄弱、知的障害の関係について述べ、精神遅滞の診断基準、原因および合併症(てんかん、運動障害、感覚障害、精神医学的行動異常)の診断、二重診断(dual diagnosis)を概説した。治療については、原因治療の他、主として合併症治療、なかでもてんかん、分裂病、躁うつ病、挿間性精神病・気分変動、行動異常、青年期発症の痴呆・アルツハイマー病について述べ、精神遅滞特有の配慮として副作用および教育・福祉面からの支援に言及した。
Key words:mental retardation, AAMR classification, dual diagnosis, aging, Down syndrome

■学習障害

●読字障害
中根 晃
 学習障害(LD)の一型である読字障害は医学的には特異的発達障害にカテゴリーづけられ、医学と教育が連帯して対処すべき病態で、DSM―〓やICD―10の診断基準によって定義される。しかし、そこで指示される標準化テストは医学的診断場面ではほとんど使用されておらず、学校での成績評価とWISC―〓やK―ABCなどの認知検査を参考にして診断する。治療には学習障害それ自体による学習意欲の喪失および併発するADHDによる注意ないし行動の障害の対処を行ない、教科のつまずきへの対応は教師に委ねられる。文部科学省が示す学習障害への教育体制では、都道府県に設置される専門委員会には専門医が参加するように定められている。読字障害では脳科学的機構もかなり明らかになっており、教師による指導がそれにかなうものであることを連携チームの中で発言することとならんで、親に対しても適切な助言を積極的にしていくことが期待される。
Key words:learning disorders, reading disorder, ADHD, definition of LD by the Japanese Ministry of Education, educational treatment
●算数障害
中根 晃
 算数障害は数の読みと関係した計算ができなかったり、数字との対応が困難である場合のほか、図形や体積など視覚空間認知が困難の場合とがあり、言語性LDによるものと、非言語性LDによるものとに分けられる。診断にあたっても各種の認知検査によって両者を識別することが治療教育的な教材策定に役立つので、このような情報は積極的に教師に伝えることが望ましい。算数障害のある子どもは学校での勉強ばかりでなく、生活全体に困難を伴っていることが多く、勉強に自信を失っている。Methylphenidateの投与も、これによって彼本来の能力を教室で見せることが目標となる。多岐にわたる算数障害の内容を分析して彼が答えられる質問を用意するとともに、教師は薬物の効果が十分な時限に、しかも飽きがきていないうちに積極的に皆の前で彼が正しく答えられるような見せ場を作ることで学習の意欲を促すことが望ましい。
Key words:non―verbal learning disorders, mathematics disorder, disorder of visio―spacial organization, reading disorder, educational treatment
●発達性書字障害
宇野 彰
 発達性書字障害は発達性難読症に伴う書字障害であることが多い。しかし、読みの障害を伴わない発達性書字障害児の報告も少なくない。本邦では、音読は正常であっても漢字のみの書字障害を呈した報告例が多い。一方、まれではあるが漢字に加えてひらがな、カタカナ、数字やアルファベットの音読は完璧であるにもかかわらず、音読のみの障害を呈する症例が1例のみ報告されている。報告されている発達性書字障害児は、全例なんらかの視覚情報処理過程の障害を認めていた。また、局所脳血流量からみた大脳機能障害部位は、左側頭葉と頭頂葉、後頭葉の一部に限局されていた。リハビリテーションの手法についても開発が行われている。
Key words:developmental dyslexia, dysgraphia, cognitive dysfunction, diagnosis

■運動能力障害

●発達性協調運動障害
太田 昌孝
 知的能力や言葉に遅れがなく、麻痺などの運動機能に関わる特別な体の病気がないのに、粗大な運動や手先の微細運動がうまくいかない子どもがいる。この障害は“不器用症候群”あるいは発達性協調運動障害(DCD)とよばれる。自閉症、Asperger症候群、ADHDなどの行動的症候群、学習障害・特異的発達障害、言語障害あるいは精神遅滞などの併存する障害で来院するのがほとんどである。治療に際しては合併症を含めた適切な診断と運動発達をはじめとする発達と行動の評価が必要とされる。最近では運動課題に際しても認知的アプローチが強調されており、その原則は以下の通りである。1)常にポジティブに評価すること、2)積極的な参加を促し、自我意識を高めること、3)運動課題は興味を持ちやすい課題で、能力相応で簡単なものから始めること、4)課題の難度を徐々に上げていき、持続を促し、本人にも進歩がわかるように工夫すること、5)特定の技能の進歩と自己達成感の向上とを常に考慮するべきこと。合わせて親に対する心理教育が必要となる。
Key words:developmental coordination disorder, clumsy, specific developmental disorder of motor function, psychoeducational treatment, parent psychoeducation, comorbidity

■コミュニケーション障害

●表出性言語障害
小泉 毅
 表出性言語障害とは表出言語が非言語性知的能力と言語理解との両方に比べて明らかに低い状態をいう。DSM―〓では発達型と後天型の2つのタイプに分けられ、ICD―10との相違点の1つである。1歳半健診において、発語の基準を通過しない子どもが約5%存在する。その中には、自然とcatch―upしていく「晩成型」と、その後、発達障害へと発展する「リスク児」とに大別され、発達型はリスク児のケアの中で発見される。晩成型とリスク児の鑑別法は発語状況と生後18ヵ月までの行動発達課題との両面から総合的に診るときに可能となる。後天型はいったん言語獲得後に、神経疾患等の結果、急激に表出言語が障害されるもので、脳病変の重症度、部位等に予後が左右され、完全回復することもあるが、時には不完全のまま経過することもある。いずれのタイプも表出性言語のみでなく対人関係の遅れなどを随伴することから、これらに対応した早期発見―早期ケアが必要である。
Key words:18months examination, children at risk, early diagnosis, finger―pointing, community consultation―liaison
●受容・表出混合性言語障害
栗田 広  長田 洋和
 受容・表出混合性言語障害は、適応を損なう言語理解と表出の障害があり、精神遅滞や感覚器障害では説明できず、広汎性発達障害でもないものである。治療は、言語聴覚士によって行われるが、一般には子どもなりのコミュニケーションを励ますことが大切で、併発がまれでないADHDを含む行動・情緒障害への対応も必要である。
Key words:expressive language disorder, mixed receptive―expressive language disorder, receptive language disorder, specific language impairment
●音韻障害
岡崎 恵子
 音韻障害は子どもが自分の属している言語社会の成人の音韻体系を習得していく過程で、誤って学習した音韻体系や、未熟な発達段階での音韻体系を反映した音の誤りを示すものである。
 音韻障害の診断には、言語症状としての構音の誤りパターンを把握すると同時に、その原因を明らかにするための検査が必要である。構音検査に加えて、音の認知面の検査、言語発達検査、構音器官の形態と機能の検査などを行う。
 音韻障害の治療には、構音の習得を進めていく上の条件を整え、訓練の適応を判断して訓練を行う。訓練法としては、運動面の訓練を主体とする伝統的アプローチと言語規則の確立を基盤とする言語学的なアプローチがある。それぞれの症例に適した訓練法により構音を改善し、円滑なコミュニケーションが行えるようにする。
Key words:phonological disorders, articulation disorders, traditional approach, linguistic approach
●吃音症
栗田 広  長田 洋和
 吃音は、話し言葉の流暢さの障害が年齢不相応に強い状態である。軽症例は自然に軽快するので、子どもに話すことへの圧力を取り去り、自分なりの仕方で気楽に話すことを励ますことが、二次的な心理的問題の発生を回避するためにも大切である。これらに加え、重症例では、言語聴覚士による対応が必要である。
Key words:speech disorders, stammering, stuttering

■広汎性発達障害(PDD)

●自閉症
杉山 登志郎
 自閉症の治療の中心は治療教育(療育)であり、早期からの療育が長期転帰を改善した。しかし同時に、強引な療育が強度行動障害のような強い副作用を生じる場合もあることが分かってきた。社会スキルトレーニングを行うことと、過度に侵襲的にならないという矛盾をはらむ療育を可能にする方法として、1つは早期療育の実施であり、もう1つは自閉独自の認知構造に添った働きかけの工夫である。前者に関しては2歳台からの日常生活訓練を中心とする一般的な障害児療育が有効であるが、後者に関しては、提示する情報の制限や、課題を直線化させることなど、構造化と呼ばれる独自の工夫が有効である。また薬物療法も自閉症の知覚過敏などの生理学的不安定さを軽減させるのに有効である。
Key words:autism, educational treatment, early intervention, structural method, pharmacological treatment for autism
●レット障害
川崎 葉子
 Rettにより1966年に初めて報告された、特徴的症状と経過を呈し、原則として女子
のみが発症する脳障害である。有病率は女子10、000〜15、000人につき1人で、国内外で地域差はない。正常に発達した女児が1歳前から2歳までに発達の停滞、あるいは退行に気づかれる。手の機能の喪失と独特な常同運動、後天性の小頭症、下肢に強い痙性運動障害が進行性に出現し、最終的には重度の精神遅滞および軽度ないし中度の運動機能障害の状態となる。臨床特徴としては他に脳波異常が必発し、てんかんも高率に発症する。呼吸異常、側彎や後彎等脊椎の変形、成長障害もみられる。病因として最近X連鎖性の遺伝子の異常が発見された。
Key words:Rett's disorder, X chromosome doninant mutation
●小児期崩壊性障害
栗田 広
 小児期崩壊性障害は、正常発達の後に2〜5歳で有意味語消失を含む発達退行を呈する広汎性発達障害である。退行は6ヵ月程度で終わり、自閉症との区別は困難な状態となる。発達的変化はあり生命的予後は不良ではない。治療的対応は、自閉症へのそれが適用される。自閉症より、てんかん合併率は高く、発達的予後は不良な傾向がある。
Key words:autism, childhood disintegrative disorder, disintegrative psychosis, Heller's syndrome, speech loss
●アスペルガー障害(症候群)―そのプロトタイプと現在の治療
神尾 陽子
 この20年ほどの臨床経験の蓄積により、アスペルガー障害のプロトタイプが築かれ、また認知心理学的研究によって、優れた機械的な記憶と抽象的思考の困難といった凹凸のある認知特徴と、他者の感情や意図を理解することの特異的な障害が明らかにされてきた。こうした障害特性の理解に基づく今日の治療教育を、2つの側面から論じた。すなわち環境の構造化、書記化などの環境への介入の側面と、対人的障害およびコミュニケーション障害に焦点を当てた様々な教育的技法の試みである。後者はまだパイロット的な段階で、心の概念を直接教えることの困難さを示す一方で、構造化された場面での対人的行動の改善の可能性を示唆している。今後、治療モデルの精緻化と教育プログラムの開発と実践の蓄積が求められる。さらに、本障害に合併がよく知られているうつや不安、強迫、行為障害などの治療の概要を述べた。
Key words:Asperger syndrome, high‐functioning autism, social and communication deficits, structurization, visualization
●特定不能の広汎性発達障害
黒川 新二
 「特定不能の広汎性発達障害」(DSM―〓)の概念、診断、治療について述べた。診断においては、操作的診断方法によって「特定不能の広汎性発達障害」と診断することにとどまらず、より積極的に、自閉症に近縁な発達障害、あるいは、アスペルガー障害と関連づけて考えることのできるパーソナリティーなど、内容のある診断を行うべきであると述べ、その診断の手がかりになる事項を説明した。治療においては、自閉症圏の障害の治療と、知的障害のない広汎性発達障害の治療とを、簡単に述べた。
Key words:pervasive developmental disorder, autistic spectrum disorder, Asperger disorder

■注意欠陥および破壊的行動障害

●注意欠陥/多動性障害の治療
上林 靖子
 注意欠陥/多動性障害(ADHD)は、不注意と多動、衝動性を特徴とする神経生物学的障害である。その治療目標は、障害を持つことによる負の影響を最小限にし、患児の持っている固有の発達を実現し、自尊心を培うことである。治療法としては、中枢刺激薬を中心とする薬物療法が70〜80%に有効であり、これと並んで、ペアレント・トレーニング、ソーシャルスキル・トレーニング、教育的介入などを行う。
Key words:ADHD, pharmacotherapy, parent training, social skill training, educational intervention
●行為障害
猪股 丈二 山崎 晃資
 行為障害(CD)と非行行動との関係、CDについての概念、状態像、発症の危険因子、その他の精神障害との併発、出現率、治療的な側面として、少年期発症型のCDのA君の治療例について、診断・検査・症状の変遷と経過、回復過程について述べた。
 治療的な側面では親の養育訓練法、家族療法、問題解決技術訓練法、愛着理論に基づく治療法、薬物療法などについてふれた。
Key words:conduct disorder, etiology, psychosocial therapy, family therapy, correctional treatment
●反抗挑戦性障害
齊藤 万比古
 反抗挑戦性障害は反抗的問題行動と反抗対象に対する高い両価性が特徴的なDSM記載の疾患単位である。その治療は患児本人を対象とする治療技法(精神療法、行動修正法、薬物療法など)、親あるいは家族へのアプローチ(親ガイダンス、ペアレント・トレーニングなど)、他機関との連携(学校や児童相談所など)の3分野から各ケースの特性に応じて選択された複数の方法を組み合わせたものとなるべきである。ここでは反抗挑戦性障害をその過半数を占める注意欠陥・多動性障害との併存例である中核群、非併存例である辺縁群の大きく2群に分類し、その診断過程を略記するとともに、各々の群における治療技法選択の基準および治療上の留意点を記して、現時点における反抗挑戦性障害の治療ガイドラインとした。
Key words:oppositional defiant disorder, individual psychotherapy, behavior modification, pharmacological treatment, parent training

■異食症・反芻性障害

●異食症・反芻性障害
石川 知子  市川 忠彦
 いずれも小児の食物摂取に関する障害である異食症(pica)および反芻性障害(rumination disorder)について、DSM―〓に準拠して解説した。同時にICD―10との異同についても考察し、さらに両障害に関する文献を展望し、心身両面の検査・診断・治療が必要であることを指摘した。異食症については、抜毛と毛髪摂食の症例を、反芻嘔吐症については自閉症児の吐乳の症例をそれぞれに提示し、環境からのさまざまなストレスが、とくに子どもにおいては、心身症的な形を取りやすいことを指摘するとともに、周囲の大人たちが個々の子どもの心身の特性を洞察し、子どもを取り巻く環境を個々の子どもの特性に合わせて的確に調整することに、治療の主眼を置くべきことを強調した。 
Key words:pica(magpie), rumination disorder, GER, trichotillomania

■チック障害

●慢性チック障害
金生 由紀子
 チックが1年以上持続する場合を慢性チック障害とした上で、治療的な観点から臨床特徴を整理して、治療の基本的な構成と主な治療法について述べた。治療に当たっては、チック症状自体の重症度、チックによる悪影響の重症度、OCDやADHD等の随伴症状の重症度を評価して、方針を立てる必要がある。治療の基本は、心理教育的で支持的な精神療法や家族ガイダンスおよび環境調整であり、軽症例はそれのみで軽快することがある。チック症状へのより積極的な治療には薬物療法があり、haloperidol、pimozide等の抗ドパミン作用が強い神経遮断薬が使用されてきた。“非定型”神経遮断薬のrisperidone、clonidine等の使用も考慮される。随伴症状には、薬物療法、認知行動療法等が行われる。長所を含めた本人全体を把握するとともに長期的な見通しのもとに慢性チック障害と付き合えるように援助する包括的な治療が重要である。
Key words:chronic tic disorders, Tourette's disorder, chronic motor or vocal tic disorder, treatment, comorbidity
●一過性チック障害
太田 昌孝
 チックとは突発的で急速であり、かつリズムなく繰り返されるパターン化した運動あるいは発声を指す。チックは一定の時間は意図的に止めていることができるが、抵抗できない不随意なものである。一過性チック障害とは、チック症状が出現するものの短期間のうちに消失するチック症である。チック症、とりわけ一過性チック障害は、心因性の疾患との誤った理解の上で治療がなされてきたように思われる。チック症は生物学的な基礎のある疾患であると理解することが治療の基盤として必須である。一過性チック症の治療の基本は、まず、親のカウンセリングを行いつつ、子どもの症状の経過を見ることである。軽いチック症であれば、このような働きかけだけで治ってしまうことが多い。チックが悪化して全身に及んだりして、疲れたり、生活に支障をきたすことがある場合には、薬物療法、精神療法、環境調整など本人への積極的な治療が必要となる。
Key words:tic disorders, transient tic, premonitory urge, counseling, client/family psycho―education, managing the environment

■排泄障害

●遺尿症
相川 務
 遺尿症は睡眠時不随意排尿:夜尿症と昼間不随意排尿:昼間遺尿症とに分類されるが、昼間遺尿症のほとんどが夜尿症と合併している。
 夜尿症の成因については未だ議論の多いところだが、夜間多尿と睡眠時膀胱容量の低下が主要原因で睡眠時の尿産生量が膀胱容量を上回る状況ができて夜尿が生じると考えられる。病型分類は病態と治療を意識して作られるべきで、夜間尿量によって多尿型と非多尿型に分け、さらに多尿型を1回夜尿量の多少で2つに分類するのが良い。夜尿症の治療は〓病型診断、〓生活指導、〓薬物治療、〓カウンセリングの4つが骨格をなす。薬物治療は常に必要最少限の投与量を心掛け、生活指導で効果不十分な部分を薬で補うという意識が大事である。多尿型夜尿症にはDDAVPが著効するという当初の予測はくずれ、無効例も多かったが、三環系抗うつ薬の併用で消失した。DDAVP投与で病型が非多尿型に変化したためで、病型診断を随時確認することも重要である。
Key words:nocturnal enuresis, nocturnal urine output, bladder capacity
●遺糞症
奥山 眞紀子
 かつては遺糞症が心理的要因で起きると考えられていたが、現在では最も多い一次的原因は便の停滞であると考えられている。それを反映して、遺糞症の治療は下剤を使用した生理的治療が主流となっている。しかし、その背景に心理的問題があったり、遺糞症が長期に続くと二次的に親子関係の問題や心理的問題が生じる。したがって、生活指導と生理的治療を組み合わせながら、状況に応じて心理的治療を行っていく多面的治療が必要である。遺糞症は年齢が高くなると自然に改善することが多いが、二次的な心理的影響を予防するためにも、早期からの積極的な治療が望まれる。
Key words:encopresis, constipation, multi―modal approach

■幼児期,小児期または青年期の他の障害

●分離不安障害
小林 隆児
 分離不安そのものは、誰にでも、どのような病態にあっても生じうるものであるが、子どもの素質や養育環境の要因がからんで乳幼児期の愛着関係が十分に育まれなかった時、幼児期後期から学童期にかけて、分離不安障害が起こりやすくなる。分離不安は生活上の出来事を契機に起こりやすいが、養育者が子どもの不安を十分に受け止められる心的状況にないと、分離不安は一層強まり、生活適応面でも問題が生じ、分離不安障害として治療の対象となる。分離不安が強まる時には、同時に子どもの心に課せられた課題をしなければならないという強い義務感や焦燥感も生じていることが多く、両者の気持ちの狭間で強い葛藤状態になる。したがって、治療の基本は、子どもが養育者に愛着行動を自由にとれるようになり、養育者との間で安心感が育まれていくように援助することである。多くの場合、養育者に子どもを受け止めることができる心的状態にないため、家族への介入が重要なウエイトを占める。
Key words:approach―avoidance motivational conflict, attachment, separation anxiety, separation anxiety disorder, school phobia
●選択性緘黙症
星野 仁彦  大島 典子  桃井 真帆
 選択性緘黙症とは、言語能力や知的能力がほぼ正常な子どもが、幼稚園や学校など、特定の場所で言語による他者との交流を拒み、比較的長期にわたって沈黙を続けるという病態を指している。
 大井によれば、「コミュニケーションの意欲のあり方」に基づいて、次の3型に分類される。即ち、家族以外の人との非言語的コミュニケーシヨンを自発的に求める〓型(社会化欲求型)、家族以外の人とのコミュニケーションを積極的には求めないが、受動的には求める〓型(社会化意志薄弱型)、家族以外の人とのコミュニケーションを拒絶するかのごとく全く求めない〓型(社会化拒否型)である。病因としては、〓型から〓型にいくにつれて、環境要因よりも素因の方が大きな比重を占め、難治性である。即ち、軽度の発達障害や人格の歪みを伴う。
 治療に際してはまず、非言語的な精神療法である遊戯療法(箱庭療法・絵画療法など)を行い、難治性の場合、入院させて行動療法を行う。家族療法と環境調整療法も同時に行うことが重要である。
Key words:selective mutism, total mutism, mutism
●反応性愛着障害
白瀧 貞昭
 反応性愛着障害は乳幼児期に子どもが適切に形成すべき対人関係を形成できていない状態で、しかも子どもを養育したり、世話したりする人が子どもの情緒的要求や身体的要求を無視したり、持続的で安定した関わりを持たないという特徴が子どものいる環境にある場合に生じる。愛着障害の内容として、対人関係を持つことへの過度の抑制、あるいは対人への接近と回避という矛盾で特徴づけられる態度(抑制型)とはっきりとした依存対象を持ち得ていない対人様式(脱抑制型)の2種類がある。この障害に対する治療的アプローチは子どもをもう一度乳児期の愛着関係形成の可能な状態に退行させ、子どもと養育者(あるいは世話をする人)との間の愛着行動の表出と授受を促す試みが主になる。このような乳幼児期の養育者、中心的世話人への愛着関係の確立障害は後の対人、対社会関係の発展の上で無視できない影響を及ぼすものであるから早期発見と介入の早期開始が必要である。
Key words:reactive attachment disorder, inhibited type, disinhibited type, attachment behavior, signaling behavior

■臨床的注目の対象となりうるその他の状態

●児童虐待 ――児童相談所での援助のあり方――
岡田 隆介
 近年、児童虐待が激増するに伴い、その臨床への期待も日増しに強くなっている。しかしながら児童相談の現場では、大人から子どもへの暴力のすべてを児童虐待とくくり、膨大な数の虐待対策に忙殺されて、結果的に経過観察的または監視的な在宅指導か、あるいは子どもの施設措置かといった二者択一的な、敏速だが単純すぎるメニューで対応せざるを得なくなりつつあるように思われる。
 このように危機介入的に点として関わるのではなく線として援助していくためには、トラウマになりうる暴力とは何かという診立てや、語られるストーリーからどのような新しい真実を構成していくかという視点が必要となってくる。児童相談の現場に求められる援助技法について述べる。
Key words:child abuse, trauma, support system
●境界知能
山田 佐登留
 通常知能(IQ85以上)と精神遅滞(IQ70以下)の間にある例を境界知能という。境界知能の場合は対象となる症例が精神医学的に問題を抱えていない場合には特別診断が下される必要はなく、家庭、学校、社会適応が本人なりになされていれば精神医学的関与は必要ないと考えられている。しかし境界知能を有する場合、学習の困難から自己評価の低下、ひいては対人関係の不得手、登校をいやがるなどの不適応行動が認められることが多くあり、また境界知能を有する例の多くには知的なアンバランスが見られるので本人の特徴をつかんだ上での対応法が重要となる。境界知能を有する例の学習の困難、注意欠陥多動性障害を有する境界知能症例とその対応、自閉症を有する例に対する対応について述べる。
Key words:borderline intellectual functioning, learning disorders, attention―deficit/hyperactivity disorder, autistic disorder

■成人型精神障害の小児・思春期発症

●精神分裂病
松本 英夫
児童期分裂病について、自閉症との関連を中心にその概念と研究の歴史を概観し、DSM_〓をもとに診断基準の要点を紹介した。続いて治療ではまず薬物療法について、いまだhaloperidolとchlorpromazineが中心的役割を果たしていることを述べ、病期を急性期、回復期、残遺期に分けて論じ、特に急性期では比較的速やかに中等量以上に用量を上げて状態の安定を図ることが重要であることを述べた。さらに本邦で唯一使用が可能な非定型抗精神病薬であるrisperidoneについて、子どもへの使用経験の蓄積はないもののまず成人のアルゴリズムに準じて使用することを提唱した。次に心理社会的治療では筆者が日頃行っている心理療法の要点を概説し、分裂病児の治療における教育も含めた社会的資源のネットワークの重要性と浜松地区の現状を紹介した。しかし特に児童期分裂病の治療に関する研究はほとんどないため、内容には筆者の経験の域を出ない部分も多く、今後多数の臨床の積み重ねが不可欠であることを改めて強調した。
Key words:schizophrenia, childhood_onset, antipsychotics, serotonin_dopamine antagonists, psychosocial therapies
●大うつ病性障害
本城 秀次
 子どもの大うつ病について、その概念の変遷を概説し、現在ではDSM_〓に代表されるように、子どもの大うつ病は大人のそれと同じ診断基準で診断されることを明らかにした。
子どもの大うつ病の多くは不登校を訴えて受診することが多く、抑うつ症状を自ら語ることは稀である。そのため、いわゆる登校拒否との鑑別が大きな課題となる。正確な診断のためには、こちらから積極的に抑うつ症状について聴取することが重要である。
治療的には、抗うつ薬を中心とした治療が行われるが、この年齢層の患者には大人に比して薬物の効果が明瞭でないように思われる。そのため、相対的に精神療法的アプローチの比重が大きくなるという印象を持っている。
さらに、子どもの大うつ病の治療について、薬物療法、精神療法の両面について文献的検討を若干行った。
Key words:childhood, adolescence, major depressive disorder, psychotherapies, pharmacologic treatments
●思春期の双極性障害
市川 宏伸
 思春期に気分障害と診断される患者は精神分裂病と比較するとかなり少ない。精神分裂病が小学校高学年から目立つのに対し、中学校高学年から診断基準を満たす者が見られる。しかし、不登校を呈し、いわゆる抑うつ状態とされる者の中には、気分変調性障害、適応障害などと診断される者がかなりいる。この時期の気分障害には経過を追うと非定型像を示す者や、精神分裂病に診断を変更される者もいる。成人に比べると双極性の症状を示す者が多いとされ、薬物的にはlithium carbonate、carbamazepineなどが有効である点は、成人の場合と同様である。最近、前思春期を中心に小児の双極性障害が取り上げられており、双極性障害の躁状態と注意欠陥多動性障害の衝動性との異同についての論議が行われている。薬物抵抗性の症例もあり、環境調整や精神療法的対応が必要な例もある。
Key words:bipolar disorders, dipressive state, adolescents, lithium carbonate, carbamazepine
●子どものPTSD治療
長尾 圭造  奥野 正景  進藤 英次
 子どもにもPTSDを含むストレス関連傷害が起こりうることが知られるようになってきた。原因となる外傷体験には種々のものがあるが、今回は一過性の集団的な外傷体験である災害に対する予防と治療を含めた対応について、我々が関与した腸管出血性病原性大腸菌O157による堺市学童集団下痢症での具体的対応を例に挙げ説明した。子どもの場合には薬物療法が単独で行われることは少なく、精神療法が中心となり、精神療法においても言語的手段のみでなくパラ・バーバルセラピーが併用される。具体的には、個人精神療法、薬物療法、家族療法、グループ療法、予防的危機介入などがあり、子どもの場合には特に学校を基礎とした予防的危機介入を含めた取り組みが重要である。
Key words:posttraumatic stress disorder, Enterohaemorragic Escherchia coli O157, infection, treatment, child
●強迫性障害
野邑 健二  本城 秀次
 強迫性障害は反復的な強迫行為と強迫思考からなり、自我異質的で過剰・不合理であることを自ら認識し、強い苦痛と時間の浪費をきたして日常生活に著明な障害をきたす疾患である。鑑別には気分障害、精神分裂病、広汎性発達障害が挙げられる。児童期の強迫性障害は家族を強迫行為に関与させる巻き込み型がしばしば見られることが特徴である。家族には特徴的な性格傾向が見られることが多い。このため、治療は本人に対する薬物療法、行動療法、精神療法とともに家族に対する精神療法的アプローチも大切である。本人への治療は、良好なラポールを基礎に行動療法的アプローチを用いる。近年薬物療法の効果も認められてきている。児童期の強迫性障害の治療反応性は悪くないが、その後の社会適応のサポートのためフォローが必要である。
Key words:childhood, obsessive_compulsive disorder
●社会恐怖(社会不安障害)
高岡 健
 児童・青年期における社会恐怖の治療法について述べた。患者が比較的低年齢の場合は、通院の目標を「病院へ遊びに行くこと」に定め、遊戯療法や箱庭療法を通じて楽しみながらカタルシスをはかる。親面接では、親による症状の過小評価・親の過大な不安・自責感などに留意した上で、代理学習や情報伝達といった家族因子を具体的に取り上げることが必要である。患者が比較的年長の場合には、通院の目標を「行動の範囲を(病院という)1ヵ所分だけ広げること」に定め、陰性の自己評価の軽減をはかる。治療の進展にしたがって患者が社会的場面への参画を試みようとする時には、imipramine、sulpiride、mexazolamなどの薬物療法や、皮膚電気刺激による制御法(山下)を併用する。親面接では、心的外傷への理解が重要であり、いじめの可能性をつねに念頭におく。いずれの年齢においても、学校教師の理解と協力が不可欠である。
Key words:social phobia(social anxiety disorder), child and adolescent, treatment
●パニック障害
猪子 香代
 児童・青年期のパニック障害についてはこれまであまり論じられてこなかった。今回、精神科外来を受診するパニック障害の児童・青年期症例についての診断・評価、治療について考察した。児童・青年期のパニック障害は、パニック発作の状態像やパニック発作と直接の関連をもたない症状に特徴がある。合併する不安障害やうつ病について考慮すべきである。児童・青年期の精神科臨床においては、panic attackをもつ症例について、より心理社会的問題への配慮が必要と思われた。
Key words:panic attacks, panic disorder, children and adolescents
●特定の恐怖症
大隈 紘子
 子どもの特定の恐怖症について、臨床の立場から報告した。子どもの恐怖症を診断する時には、子どもの発達学的、あるいは疫学的な研究から、子どもの精神保健の範囲で考えたほうがよい。言い換えると子どもの正常な恐怖症と診断し、精神科に紹介しないでよい一群があることを述べた。つぎに、特定の恐怖症の診断とその診断の際に留意すべき点について述べた。子どもの特定の恐怖症では薬物療法が行われることは少ないが、もしも薬物療法を行う場合には、初めに抗ヒスタミン薬が使われることが多く、つぎに、抗不安薬、抗うつ薬、抗精神病薬が使われており、薬物療法の前提としての子どもへの説明と同意ができない場合も多く、親への薬物に対する現実的な説明と親の同意が大切であることを述べた。行動療法が特定の恐怖症の治療の代表的な心理社会的療法であることを述べた。行動療法の技法のなかでも、モデリング、系統的脱感作法、トークンエコノミー、親訓練などの技法が多用されている。そこで、この4治療技法について子どもに実際に適応する際の具体的な方法といくつかの工夫について言及した。
Key words:specific phobia, simple phobia, anxiety in children, developmental consideration, behavior therapy
●解離性障害
市田 勝
 解離性障害は解離性同一性障害や解離性健忘がその理念型だが、実際の臨床では特定不能の解離性障害(DDNOS)が多い。これは児童・思春期にも当てはまる。DDNOSの典型では、自傷や激しい情動表出、幼児的退行など普段と異なった言動を生じ、この間の記憶が空白であるエピソードを反復する。患者自身は問題意識が薄く、家族など身近な人たちが問題を強く感じることが多い。治療では、家族などを協力者とした同席面接が有用である。患者に問題意識や治療動機を育て、患者と家族に解離症状を減らす工夫をするよう助言する。重症例は境界例水準の病態であり、境界例と同じ直面化や限界設定も要する。問題行動には、解離状態かどうかによらず、行動そのものに一定の対応をすべきである。環境調節もして、多種の支えを組み合わせて治療する。他者への不信が根強ければ、陰性感情も話題とする。薬物は対症療法的に用い、多量服薬があれば慎重に投与する。
Key words:dissociative disorder, dissociation, dissociative disorder not otherwise specified(DDNOS), borderline personality organization(BPO), psychotherapy
●身体化障害
飯田 順三
 身体化障害の中核概念はヒステリーとして古い歴史を持っているが、Briquet症候群が現在の身体化障害の基盤になっている。その中心概念は身体的原因の発見できない、多発性で変動しやすい種々の身体症状であり、身体的愁訴の多いヒステリーである。併存障害として大うつ病やパニック障害や人格障害が多くみられる。このため衝動的で反社会的な行動がみられ、医師との間に治療関係を確立することが困難である。医師は患者が述べる症状の存在を認め、苦痛を理解することが必要である。また患者は症状を取り除くことを切望するが、症状を受容し、症状とともに生きていくことを学習しなければならない。cureよりcareに重点を置き、患者の個人史に耳を傾けながら気長にお付き合いしていく姿勢が重要である。
Key words:somatization disorder, therapy, Briquet's syndrome
●小児期・思春期の転換性障害の治療
西村 良二
 転換性障害の症状は、過剰な情動・緊張を症状という構造に縛りつけ、不安を減らし、患者を守ってくれる一面がある。転換症状は、ストレスや葛藤が身体症状に変化させられる(転換させられる)過程である。こうして、四肢、感覚器官、内臓器官の機能は変化させられ、さまざまなバラエティに富んだ症状を生む。症状には疾病利得が強い。小児・思春期でも、成人と同様の症状が出現するが、治療にあたっては小児期や思春期の心性の理解が必要となる。予後は小児期や思春期の転換性障害では悲観的なものではない。本稿では、小児期・思春期の転換性障害の治療法について、一般的マネージメント、薬物療法、個人精神療法、家族療法、行動療法、環境調節などを論じた。
Key words:childhood, adolescence, conversion disorder, psychotherapy, pharmacotherpy
●心気症
遠藤 みどり
 小児・思春期には心気症が頻繁に出現し、しばしば不登校を伴う。患者側のメタ認知や言語表現の能力が比較的未発達であること、大部分がまず他科で診療されること、除外診断には数年間の経過観察が必要であることなどのため、確定診断には時間がかかるが、大部分は思春期を中心として出現する一過性の現象で、支持的な心理社会的治療により良好な経過をとることが多い。年少者は遊戯治療や作業療法の適応であり、思春期以降では認知行動療法が有効とされる。補助的な薬物療法には抗不安薬や抗うつ薬が用いられる。
Key words:hypochondriasis, children and adolescents
●適応障害
井上 洋一  水田 一郎  小川 朝生
 適応障害はストレスによって生じる一過性の障害である。〓軸の感情障害や不安障害などの診断基準には該当しない抑うつ、不安などの精神症状、あるいは社会的機能の低下(職場や学校への不適応)が見られる。これらの症状はストレスから3ヵ月以内に発現し、ストレス終結後6ヵ月以内に治まるという条件を満たしている必要がある。症状論的には、除外診断であり曖昧さを抱えている。診断の屑篭(waste bascket)と呼ばれることもあるが、職場や学校のメンタルヘルス、Consultation_Liaison精神医学、児童青年期精神医学で特に有用な診断概念である。症候論的操作的診断基準であるDSM_〓にあって、成因論的視点を持っているのが特徴であり、ストレスに対する反応であるとの成因論を要件として備えている。ストレスからの分離、精神身体的な休養、薬物療法、精神療法、環境調整などの治療が有効である。
Key words:adjustment disorder, stress, depression, anxiety
●物質乱用・依存
尾崎 茂
 依存性物質の乱用は依存症をもたらし、その本質は精神依存にある。さらに物質乱用により、急性中毒や精神病性障害がもたらされる。若年者における物質乱用・依存は、多剤乱用・依存の傾向が強いこと、依存の進行が早いこと、感情障害や人格障害、摂食障害などの精神疾患の合併が少なくないこと、などの特徴がみられる。低年齢での物質乱用は深刻な医学的、心理・社会的障害をもたらし、回復には大きな困難が伴うため、早期の治療的介入が必要である。物質乱用・依存の治療としては、集団精神療法、個人精神療法、薬物療法、自助グループへの参加などのほか、家族への治療的アプローチなどが用いられる。狭義の精神医学的治療の枠組みでは十分な治療効果が期待できない場合には、関連する多領域間の連携が必要となる。今後、若年者に特化した個人あるいは集団による治療プログラムの開発や、家族介入技法の開発が待たれる。
Key words:substance abuse, substance dependence, juvenile alcoholics, substance_induced psychotic disorders, comorbidity
●神経性無食欲症 _自己感覚不全の再形成をめざして_
堤  啓
 筆者は、はじめに神経性無食欲症(AN)に関する病因論についてレビューを行い、次いで診断と検査について、基本的症候や状態の把握について論じた。
 さらに、治療の項では、ANの治療のポイントとして、幼児期の第一次分離個体化のやり直しという観点から論じた。そのために、比較的軽症で若年の女子の治療経過を記述した。そこでは、AN患者が対象との間でアンビバレントな感情体験をすることと、そのなかで主体的自己感覚体験をすることの重要性を論じた。最後に、AN患者の精神療法を行う上での困難な要因についてもふれた。
Key words:self_starvation, impairment of sense of self, restoration of the primary separation_individuation
●神経性大食症
遠藤 幸彦
 神経性大食症は、近年増加が指摘されている障害の一つである。その経過においては、過食のみならず、種々のパージングなどの衝動行為が問題となる。その意味で、症状レベルでの診断分類に加えて、パーソナリティー診断という軸も、臨床上重要な意義を持つ。こうした合併症への対処を含めて、本障害に対する有効な治療戦略を考える上での今後の研究課題は多い。
 治療的には、SSRIなどの薬物療法、認知行動療法、力動的精神療法などが用いられる。本稿では、筆者の行っている力動的精神療法について取り上げ、症状マネージメント、個人精神療法、親ガイダンスなどについて説明を加えた。
Key words:bulimia nervosa, psychodynamic psychotherapy, limit setting, parents_guidance
●不眠症、過眠症、ナルコレプシー、呼吸関連睡眠障害、特定不能の睡眠障害
島田 照三
 小児、思春期の睡眠障害のうち、不眠症、過眠症、ナルコレプシー、呼吸関連睡眠障害、特定不能の睡眠障害について概観した。治療の第一歩は、病態に対する養育者の理解であることを強調した。特に小児期では親の理解によって治療の半分以上が達成されたといっても過言ではない。また、副次的な症状を出現させないためにも担任教師を中心とした教育関係者の理解も重要であることを述べた。その上で薬物療法は慎重に行われるべきであることを強調した。
Key words:insomnia, hypersomnia, narcolepsy, breathing_related sleep disorder
●子どもの悪夢とその治療
牧原 寛之
 児童期に好発することで知られる悪夢について、その概念と診断・鑑別診断について言及した後に、治療について多くの側面からの治療的アプローチが可能であることをモデルとして呈示した症例から考察して説明した。
 悪夢の定義はここでは、その診断基準に著しく持続する苦痛や臨床的関与が必要な強い機能障害を要するDSM_〓の立場をとらず、より広く緩やかな見方を用いている。
 症例は、2歳5ヵ月から小学校入学時までがフォローされた女児である。悪夢そのものへの治療の意味・必要性と、全体から見ての発達と諸症状との関連について明らかにすることを意図し、また実際に用いられる具体的治療を示した。
Key words:nightmare, childhood, psychotherapy, drug therapy, play therapy
●夜驚症・夢中遊行症
 星 加明徳  宮本 信也  田中 英高  平山 清武
 夜驚症や夢中遊行症では、発症時に連日出現するような症例でも、3〜6歳では発現は午後9〜11時で、まだ家族の起きている時間であり家族の睡眠を障害することも少なく、2〜3ヵ月で自然に軽減していく場合が多い。外来では家族の不安な点について十分に説明し、自然経過や家庭での対応などを具体的に示して、家族が不安なく過ごせるようにする。8歳以上の高年齢で初発した場合は、心理社会的因子が発症にかかわっていないか、確認する必要があり、必要なら心理的対応も考慮する。薬物の使用はその頻度が増加して、家族の睡眠を障害する時や、事故を起こす可能性がある時など限られた場合である。
Key words:sleep terror, sleep walking, child epilepsy, nitrazepam
●概日リズム障害
内山 真
 近年、若年層の生活の夜型化が進行している。これに関連し、概日リズムの機能不全による睡眠障害(概日リズム睡眠障害)の臨床単位が国際的に認められるようになり、先進国を中心に多くの報告がなされるようになった。これらは、生物時計に関連した脆弱性を基盤として一次性に生じることもあるが、小児・思春期の臨床においては、引きこもりや不登校など精神科的問題の結果として、適切に朝の光を浴びる機会を失うと二次性に概日リズム睡眠障害が生じる点で重要である。小児・思春期の精神科的問題に介入する上で、概日リズム睡眠障害に関する知識は、臨床的な助けとなる場合も多い。本稿では、小児・思春期に多い睡眠相後退症候群(DSPS)、非24時間睡眠・覚醒症候群(Non_24)について、臨床診断のポイントおよび概日リズムの特性を踏まえた最新の治療について述べる。
Key words:circadian rhythm, sleep disorders, light therapy, melatonin
●抜毛症
生地 新  森岡 由起子
 抜毛症は、自分で習慣的に体毛を抜くことで脱毛巣を生じる病気である。その病態は年代によって異なり、多様である。診断は、皮膚科学的な知識があれば比較的容易であるが、抜毛していることを意識していなかったり、認めたがらない例も多いので、問診だけで診断できないこともある。精神医学的には特別な検査は必要ないが、知的能力や合併症の有無は調べておく必要がある。家族内に様々な問題がある場合も多い。発達段階で治療のあり方は異なっており、幼児期には親面接だけでも軽快する例があり、一般には親面接と家族療法を組み合わせて行う。学童期に入ると、遊戯療法や個人精神療法、あるいは行動療法など特定の心理学的な治療技法を用いる必要があり、家族面接も必須である。青年期の症例は、さらに治療が困難な例が多くなり、個人精神療法や行動療法に加えて、薬物療法や限界設定が必要になる症例もある。
Key words:trichotillomania, mother_infant relationship, transitional object, play therapy, behavior therapy

■従来診断による主な問題

●不登校
小西 眞行
 不登校問題は、わが国で取上げられるようになってから40年近くを経過したが、依然として大きな社会問題である。有効な解決策が見い出されていないことを、この10数年の不登校児の急激な増加が示している(ここ8年間で倍増)。従来から不登校の成因論は、子どもの側、家族の側、および学校や社会の側の病理的要因およびそれらの複合によって説明されてきたが、この増加現象を説明する新たな概念として滝川の考察4)を紹介した。また1987年に登場したDSM―〓―Rや93年に厚生省も採用することになったICD―10の診断基準がわが国でも広く普及したことにより、不登校の診断概念が変化したことにも触れた。以上の点を踏まえて、不登校の診断や鑑別診断、症状の理解や長い経過への対処の仕方、外来治療、家族療法、入院治療などを論じた。
Key words:school refusal, psychotherapy, family therapy, residential therapy, psychiatric nosology
●家庭内暴力
井上 洋一  水田 一郎  小川 朝生
 家庭内暴力はわが国に特有の現象であり、その背景にはわが国の文化社会的環境や親子関係のあり方の問題がある。何らかの疾患があり、その影響で二次的に家人に対する暴力が出現することがあり、そのような症例では原疾患の治療が重要である。精神分裂病、神経症、てんかん、精神発達遅滞、境界例、脳器質性疾患などを鑑別する必要がある。他の疾患が合併していない、家庭内暴力の中核群は、未熟さをもつ子どもたちである。対人関係での挫折や葛藤、社会参加への不適応、不安等の問題を抱えている。治療は、暴力を軽減する対応と、患者の抱える問題への対応の二つの方向性を合わせて考えていく。暴力が生じる具体的状況の詳しい検討、患者の不安や悩みを共感し患者を支持していく作業が求められる。両親へのサポートは不可欠である。薬物療法、入院等は本人の了解を得ることが原則である。
Key words:domestic violence, regression, school refusal, withdrawal
●児童思春期境界例
青木 省三
 まず、児童思春期の境界例という診断には慎重さを必要とするという私見を述べ、ついで「境界例的破綻」あるいは「境界例的対人関係」のエピソードを紹介し、治療者・患者関係だけでなく、親と子、教師と生徒など、さまざまな関係で同様のことが起こりうることについて述べた。最後に、児童思春期境界例に対するアプローチの実際について、治療者の一貫した態度、治療者・患者関係を少し外から眺めるような第三者的な眼差しの必要性、患者の現実生活、特に現実の対人関係を視野に入れることの重要性などについて述べた。
Key words:childhood, adolescence, borderline personality disorder, psychotherapy
●思春期妄想症
吉岡 眞吾  舟橋 龍秀  村上 靖彦
 思春期妄想症は、30年を超える歴史をもつ臨床概念である。それは当時精神分裂病(以下、分裂病と略記する)と診断されていた症例から、自己臭妄想や自己視線恐怖を主訴とし、そのために「周囲の人に嫌われ、避けられている」と確信する症例を対象として分離した概念である。その概念の大枠は以下のようである。
 1)非分裂病性の、慢性化傾向をもつ精神疾患。疾病分類学上は精神病と神経症の中間に位置する境界例領域に属する。DSM―〓では297.1(妄想性障害)へ分類するのが妥当である。
 2)多くが思春期から青年期に発症し、症状は特徴的(後述)な妄想とそれに起因する退避的な生活態度である。病態の背景には思春期・青年期の心性※、特に対人恐怖心性が密接に関係している。
 3)治療に関しては、患者を受容した支持的な精神療法と生活調整を根気よく続けることが重要であり、薬物療法は補助的な役割となろう。
Key words:adolescent paranoia, schizophrenia, social phobia, delusional disorder

■関連領域の障害

●てんかん
韓 春錫  松浦 雅人
 小児てんかんは異なる年齢層によって特有な症候群を呈し、発作型および脳波像も年齢の発達に伴って変化する。てんかんの治療は抗てんかん薬による薬物治療を基本とするが、薬物の選択は、てんかん症候群と発作型の正しい診断を前提とする。薬物の有効血中濃度、半減期、定常状態に達する時間、特有な副作用に関する知識に基づき、患児の年齢と体重を考慮して、適剤、適量を適切な間隔で投与し、最少の副作用、最大の発作抑制効果を実現すべきである。抗てんかん剤の誤用は発作が抑制されないだけではなく、時には発作の増悪やてんかん発作重積状態を誘発したり、様々な重篤な副作用を生じたりする。外科治療の適応のある症例では、その時期を失すべきではない。さらに、てんかんは心理的発達、学習能力、社会適応面でも障害を生じる可能性があり、発作の抑制だけでなく機能障害、能力障害、社会的不利を含む包括的医療が肝要である。
Key words:epilepsy, seizures, childhood, antiepileptic drugs, comprehensive therapy
●重症心身障害
井上 優子
 重症心身障害は、胎生期、小児期に発症した中枢神経障害に起因する重度知的障害と重度肢体不自由を併せ持つ病態の行政的名称であり、包含する原疾患は幅広い。中枢神経における器質性障害の広がりは大きく、視床下部、脳幹にも及び、自律神経症状にいたるまでの多彩な身体合併症を高頻度に有する。病態が成長途上の脳に加わった脳障害であるため、発達障害の一面を有し、加齢と共に状態は変化する。そのため高度の医学的管理とともに、各種のリハビリテーション的働きかけ、生活の拡充が治療上重要である。
 ここでは、重症心身障害の定義、主症状、DSM―〓記載の試み、診断、高頻度合併症とその治療について概略を述べる。また、重症心身障害児・者の精神症状について、知的障害程度の実態と、いくつかの特徴的症状について述べる。
Key words:severe motor and intellectual disabilities(SMID)
●小児・思春期心身症
宮本 信也
 小児は、心身の成長・発達途上にあるため、年少児期では反応性の身体症状という形で心身症が発現しやすいという特徴がある。治療においては、1).身体症状の軽減、2).ストレッサーの影響度の減弱、3).家族・学校の援助体制の調整、4).患児の課題処理能力の増強の4つが目標となる。留意すべき点として、少児の心を不用意に詮索しすぎないようにすることがある。余計に心理的負荷をかけないことで健全な発達が保障されれば、児自身の問題解決能力と意欲が高まることが期待されるからである。
Key words:psychosomatic disease, children, treatment