■第1章
1-1.分裂病診断の実際
−−伝統的診断と操作的診断から−−
永 田 俊 彦
抄録:分裂病はますます軽症化し,さまざな病像を呈するようになった。これに呼応するかのように伝統的診断に代わって操作的診断が流布してきた。しかし両診断学の本質には相違がある。前者は「全体論」,後者は「部分論」の立場にある。しかしながら分裂病診断には「全体論」的な視座が必要であり,いまいちど伝統的診断と操作的診断を照合させてみる意義が生じてくる。そこで両診断学を通
底する先達の業績をあらためて検討してみる。急性期におけるSchneiderの一級症状を臨床の「現場」からみると,現在の分裂病像との齟齬がある。次に慢性期に有用なBleulerの基本症状を臨床レベルで「部分論的」に検討すると軽症例がもれる。しかし伝統的診断には「隠し味」ともいうべき「補助線」診断があった。その代表として「直感診断」と「内的生活史診断」(木村)について述べた。分裂病診断の実践には伝統的診断と操作的診断の「複眼」が必要である。
Key words: schizophrenia, conventional diagnosis, operational diagnostic‐criteria
1-2.亜型(病型)診断とその意義
永 田 俊 彦
抄録:従来の病型論は「鑑別不能型」の増加で現代的意義を失いつつある。今日の課題は従来の病型の周辺に増加してきた諸病像を「亜型」として,いかにまとめるかにある。ICD‐10などの操作的診断が中核群を鮮明にするにつけ,これらの「亜型」が逆照射された観もある。本邦では1990年の中安の「初期分裂病」の提唱から,さらに論議は加速された。本稿ではICD‐10で病型として認知された単純型を紙幅の関係でこの項であつかい,分裂病型障害(F21)を「亜型」として位
置付けておく。また中安の初期分裂病も極期への移行例の報告など増加しているが,本稿の中核的病態と解しておきたい。その他,目に付く「亜型」の記述は分裂病の軽症化と密接な関係をもつものが多い。これら「亜型」を形成する分裂病の外延は「日替りメニュ−」に近く,また病態相互の位
置関係など未だ論じ得ない時期である。しかし21世紀の分裂病の主役は,この「亜型」群であろうと予見される。
Key words: schizophrenia, subtype, schizotypal disorder, early schizophrenia
1-3.鑑 別 診 断
永 田 俊 彦
抄録:主として状態像からの鑑別診断を述べた。いずれの場合でも脳器質(症状)性精神病の除外が先決であるとした。幻覚・妄想状態ではパラノイア性病態との鑑別
が重要で,それぞれの妄想野,妄想的他者,幻聴などの様態の相違について述べた。急性精神病(錯乱)状態においては,まず分裂病診断を保留すること,また最近では解離状態に誤診がみられることを指摘した。躁状態・精神運動性興奮状態では非定型精神病との鑑別
として両病態の「世界」に対するかかわりの相違について標語的に記した。うつ状態は「クズ籠」的に使用され各種の障害が隠れていること,また分裂病性うつ状態にみられるpost
festum的antefestum時間構造(木村)などの精神病理学的特徴を述べ,うつ病診断の誤診をさける手立てを示唆した。神経症症状を前景にした病態にはそれぞれの分裂病性特徴を述べ,最後に軽度精神発達遅滞者の精神病状態についてふれた。
Key words: schizophrenia, differential diagnosis, paranoid state, depressive state
1-4.症状評価尺度の有用性とその問題点
倉 知 正 佳 黒 川 賢 造
抄録:精神分裂病患者に用いられる症状評価尺度を,主として,治療効果の判定,診断用と臨床研究用に分けて概説した。治療効果
の判定のためには,簡易精神症状評価尺度 (BPRS)や陽性・陰性症状評価尺度(PANSS),診断用としては,現在症診察表(PSE)やDSM‐III‐Rのための構造化臨床面
接(SCID),臨床研究の際の症状評価としては,陽性症状評価尺度(SAPS)と陰性症状評価尺度(SANS)などがあり,この他,特定の症状群を詳しく把握するためのものもある。これらの症状評価尺度には一長一短があり,目的に応じて使い分けることが必要であるが,臨床研究だけでなく,研修や臨床の実際においても役立つと思われる。
Key words: rating scale, schizophrenia
1-5.臨床心理検査の有用性とその問題点
平 口 真 理
抄録:精神分裂病の臨床症状と臨床心理検査の関連を,WAIS‐R,MMPI,ロールシャッハ・テストについて述べた。WAIS‐Rでは,陰性症状と罹病期間が認知機能の障害に関連することを示唆した。MMPIで分裂病に特徴的とされるプロフィールは,陽性症状の強さを反映するが,陰性症状とは関連が少ない。ロールシャッハ・テストの分裂病サイン・アプローチの指標は陽性症状に関連する内容が多い。しかし,鑑別
診断のために臨床心理検査が求められるようなケースは,もともと特徴的な指標ですくい取れないものが多く,特に分裂病の初期の鑑別
や他の要因による分裂病様状態との鑑別には限界がある。
Key words: schizophrenia,clinical symptoms, WAIS‐R, MMPI, Rorschach Test
■第2章
2-1.治療方針の立て方
−−方針実現に至るまでの標準的な面接過程−−
豊 嶋 良 一
抄録:精神科の臨床現場では,治療方針は一般論やマニュアルにもとづいて決まるのではなく,医師側と患者・家族とのダイナミックな交流をとおして自ずと必然的に決まっていくものである。しかし,その交流は恣意的に展開されるものではなく,そこには一定の流れ,構造があるように思われる。ここではダイナミックな交流が展開され,方針が実現されていくために必要と思われる面
接プロセスについて述べた。この面接プロセスは,1.受診理由の確認,2.診断とプラン,3.相談と決定,4.方針の実現,の4段階から構成され,さらにそれぞれの段階はいくつかの小ステップから成っている。
Key words: decision making, semi‐structured interview process, psychiatry
2-2.患者と家族への説明
内 海 健
抄録:分裂病者は基本的に刻印を受けやすい。この病理を前提としつつ,病初期における治療の導入場面
を想定して,説明のあり方を説いた。治療に際して説明をすることはもちろん必要であるとともに(原則1),しかるにそれがあくまで治療の一環として行われるべきこと(原則2)を踏まえた上で,それが患者の内的体験にコトバを与えることにより,患者の不安や恐怖を緩和するという目的をもつものであること(原則3)を示した。具体的技法としては,「患者の言葉に基づく」,「日常語の側に近づける」,「謎を与えない」こと,さらには「内容より形式に着目する」,「身体的メタファーを使う」,「楽観的な見通
しを含ませる」ことなどを取り上げた。家族への説明に関しては簡単に原則を提示した。
Key words: schizophrenia, explanation, vulnerability, informed consent
2-3.精神分裂病治療における病名告知の意義と実際
岡 崎 祐 士
抄録:筆者が精神分裂病という病名を患者さんや家族に話すようになった経緯と,現在行っている実際を紹介した。1980年代後半からは,病態の説明と共に病名についても患者さん自身に話すようになった。その背景や理由は,1.専門家として診察し判断したことを率直に話すのが治療関係上もよい。
2.手立てを講じると,分裂病の患者さんはそれなりの生活を送ることができるという経験。
4.患者さん自身も家族も,病気を早くから知り対処を考えておいた方が後々のためにも良い。
3.患者さんや家族向けの情報・指針の充実。 5.患者さんの健康な機能の占める部分は大きく,それを信頼して良いという体験的楽観論。
6.患者さんの病名を知る権利。我々の報告の義務。 7.パターナリズムの反省,などが考えられる。現在,診察では幻聴など症状の詳細を聞きながら,病態の説明や対処の仕方についてのビデオや書籍などを提供する話の流れの中で,情報の1つとして病名を話している様子を記述した。病名の変更も検討し,分裂病の病態や病名,治療が関係者の中で明るく語れるようにしたいというのが筆者の希望である。
Key words: schizophrenia, diagnosis, disclosure, treatment, informed consent,
stigma
2-4.精神療法の留意点
鈴 木 國 文
抄録:分裂病の原因がほとんど究明されていず,決定打というべき治療法がない現状で,その精神療法の原則となる事柄を述べるならば,原因についての予断を含んだ仮説的治療法を提示するという陥穽に陥りやすい。それを避けるため,本章においては,精神療法にあたって前提として何を把握しておかなければならないか,また分裂病の型,経過時期によっていかなる治療目標を設定するべきかという点を主に論じた。特に,精神療法の基本となる判断として,診断のほかに,病態に対する患者自身の姿勢や,患者自身が何を望んでいるかといった点に関する判断が極めて重要であることを指摘した。また,急性期,慢性期,病初期,社会復帰の時期など病期によってどのような治療目標を置くべきかについて論じた。さらに主治医の交代において留意しておくべき諸点についても言及した。
Key words: schizophrenia, psychotherapy, diagnosis, assessment
2-5.米国精神医学会のガイドライン
井上 新平 岡田 和史 泉本 雄司
掛田 恭子 西原 真理 喜井 大
抄録:米国精神医学会が1997年に発表した分裂病治療ガイドラインから,「推奨する治療の要約」を抜粋し紹介した。急性期・安定化期・安定期の各時期における治療目標・診断的事項・精神科的管理・薬物治療・心理社会的治療が述べられている。急性期が最もページが多く,中でも抗精神病薬による治療が最も詳しい。この方面
でのエビデンスに基づく研究が豊富なことの反映である。このガイドラインは標準的な治療が述べられているものではないという断り書きがあり,使用する場合重要視されるべきである。わが国でもこの種のガイドラインが検討されてもよいと思われる。
Key words: schizophrenia, practice guideline, treatment principle, treatment plan
■第3章
3-1.初 診 面 接
市 橋 秀 夫
抄録:外来初診面接において留意すべき点を軽症分裂病と急性分裂病の2つの場合に分けて取り上げた。初診は診断,信頼関係の樹立,治療の導入という3つの目標を達成しなければならないが,本小論では治療の導入の仕方を重点的に述べた。軽症分裂病では病理の説明として比喩を用いることの有用性について触れ,急性分裂病では妄想や幻覚よりの不安や緊張のフォーカスを合わせること,混乱させない直截で含みのない言葉を用いること,病気であることと治ることの言明を行うことが重要である。
Key words: schizophrenia, first interview, introduction to treatment
3-2.精神分裂病の外来維持療法
西尾 雅明 松岡 洋夫
抄録:様々な予後研究が精神分裂病の回復可能性を示唆している一方で,今なお多くの患者が,心理社会的ストレスに曝された際に,急性精神病エピソードの挿間である再発を体験している現実がある。再発を防止するためには,個々の患者と回復の時期によって力点は異なるものの,薬物療法と心理・社会療法を統合させた外来での維持治療が重要となる。その際には,治療コンプライアンスを高めるための配慮がなされなければならない。表面
的な問題行動や病理よりも患者が苦痛としている点を理解する姿勢,治療合意を得るための努力,心理教育的アプローチの活用等が,治療者側に求められる配慮の中でも特に大切な点である。また,治療サービスへの患者満足度や治療関係の質は,その後のコンプライアンスに関連すると言われている。したがって,初期治療環境において治療への信頼感をいかに醸成するかが,その後の外来での維持療法の成否につながるという視点を忘れてはならない。
Key words: schizophrenia, maintenance treatment, treatment compliance, psychoeducation,
initial treatment setting
3-3.急性増悪時の対応
加藤 雅人 天谷 太郎
抄録:急性増悪の予防は分裂病治療の要点のひとつである。急性増悪の発生はある局面
での治療の失敗ではあるが,長期的な視点からは患者が病識を獲得する契機となしうる。急性増悪時の対応は早期発見,早期介入を基本とするが,早期介入を成功させるためには治療者の意見を断定的に伝えることは避け,可能性として患者と共に事態を検討する姿勢が求められる。再発を繰り返すケースにはその個人特有のパターンが認められ,それを認識することが急性増悪の反復を予防する鍵となる。寛解期に急性増悪前の兆候について話し合っておき,患者自身が急性増悪に至るパターンを自覚することが望ましい。急性増悪との鑑別
を要する病態としてアカシジア,気分障害の極期,急性錯乱状態をあげた。危機介入の具体的な方法については,電話での対応と外来での対応に分け,さらにいくつかのケースを想定して述べた。入院が必要なケースの対応の要点についても簡潔に述べた。
Key words: schizophrenia, exacerbation, therapeutic management, outpatient treatment
3-4.社会資源施設との連携
窪 田 彰
抄録:医療と福祉との連携の必要性とその実際について論じた。両者は一線をひいて区切られるものではなく,車の両輪としてその方法も機能も重なり合う部分を持ちながら,互いの専門性を発揮しつつ,協力し合って患者を支援してゆくものである。特に医療機関と保健所,福祉事務所,共同作業所,共同住居,デイケア施設等との連携における利点,問題点などについて言及した。施設間の連携の難しさは,互いの顔の見えない関係や共有できる枠組みの無さ等から,自然に疎遠になりやすい傾向を持っていることにその根源がある。
良い連携を形成するためには,連絡会ばかりではなく「職員の相互乗り入れ」等,顔を合わせ交流できる機会を増やすと共に,自分とは異なった場面
で働いている他人の実践が,患者の治療や支援に役立っていることを信じることが,その基本として必要なことであると論じた。
Key words: co‐operation, social walfare, rehabilitation, team work, day care
■第4章
4-1.入院初期の問題
星 野 弘
抄録:入院初期とは,時間的に規定された一定期間ではなく,安定した望ましい治療関係が成立するまでの経過論的期間であると筆者は定義する。もとより入院の目的は患者が身を委ね,安んじて休息してもらうことにある。患者が休息に専念するということは何もかも治療者(病院)に任せるという意味であるから,治療者の病者に対する人間的共感と治療者患者間に基本的信頼感がなければ実現されるはずもなく,入院初期の基本的問題はここに内在する。入院早期からたっぷり休息した患者は無理のない回復過程をたどり,中長期的に見ても予後が良いのは臨床的事実である。むろん,これは治療者と患者の二者関係の中だけで達成されるものではない。患者を「社会(世間)の一市民」として遇し,健康な日常生活感覚に基づいた治療スタッフの,表裏のない穏やかな対応が欠かせないのであって,それが患者の安全保障感を側面
から補強しているのである。
Key words: Conceptualization of the Earliest Hospitalization Phase, basic trust,
secured repose, unobstrusive recovery process, minimalization of intrusiveness
during hospital stay
4-2.回復初期の混乱と慢性化の防止
−−病棟で見られる回復過程−−
山口 直彦 岩尾俊一郎
抄録:分裂病の急性期が消褪した後の回復初期(寛解前期)は言語的表現に乏しい,臨床的に沈黙の時期である。過眠や抑うつ,引きこもり,時には治療に拒否的になることもある。治療者は手がかりを失い,患者への関心が薄れやすい時期でもある。治療者の変わらぬ
存在を患者に示し,患者の回復ペースに合わせることを基本とする。過早な賦活化は,寛解後期への移行を阻害することがある。
Key words: schizophrenia, early stage of remission, postpsychotic depression,
hospital care,
prevention from becoming chronic
4-3.退院に向けての準備
飯 野 龍 松本 雅彦
抄録:公立単科精神病院における,入院から退院にいたる治療実践を概観しながら,「退院に向けての準備」が入院時にすでに始まっていることを強調した。入院時に,患者およびその家族に対して,入院診療計画書に沿って,クリアすべき具体的な治療目標(休息,標的とすべき症状,予想される入院期間など)を提示し,できる限り初期に治療契約を結んでおくことが,退院に向けての最良の準備となる。治療の標的をはっきりと提示することは,患者およびその家族が取り組むべき目標を明確に絞り,精神障害に付随する漠とした不安を軽減することにもつながる。入院診療計画に沿って治療が進み,退院が期待できるとき,患者一人ひとりに合わせて,退院後の症状やその生活ぶりを治療者が具体的にイメージできることも重要である。その上で服薬確認,通
院期間,状態悪化時の対処などについて,入院中に患者からの同意を得ておくことの重要性を指摘した。
Key words: schizophrenia, admission, discharge, therapeutic contract, compliance
4-4.「超長期化」問題への対応
柴 田 明
抄録:「超長期化」問題の核には家族の心的外傷があり,それは精神科入院を契機に形成されてきたものである。そのような家族はこだわりや恨みといった陰性感情を病院に向けるため対応が困難となる。家族に対して受容的に接し機が熟するのを待つとともに,常識的な指針を維持し原則的な対応を取り続けることが必要になる。本論では「超長期化」した家族に対する対応を中心に論じた。
Key words: long‐stay patient, psychic trauma of family, admission to psychiatric
hospital
4-5.病棟内での興奮・自殺企図への対応
野中 和俊 堀 彰
抄録:精神分裂病患者の興奮や自殺企図時の,急速鎮静法や,保護室への隔離,身体的拘束といった患者の行動制限について概観する。急速鎮静の導入には,ベンゾジアゼピン系薬剤の静注がまず考えられる。患者が入眠後,抗幻覚妄想作用の強いhaloperidolの筋注または静注や,鎮静作用の強いlevomepromazineの筋注が一般
的に行われている。鎮静導入された患者に対しては,呼吸抑制,急性ジストニア,アカシジア,低血圧,麻痺性イレウス,尿閉,心筋伝導障害による突然死や悪性症候群,不食等による脱水に注意が必要である。薬物療法に反応しない場合は,電気けいれん療法を行う。拒薬が続く興奮患者に対して,デポ剤を使用することもある。精神分裂病患者の自殺については,その予防が重要であるが,慎重な観察と管理が必須である。急性期の希死念慮の強い患者の自殺予防としては,基本的には興奮患者への対応と同様で,隔離し急速鎮静を図ることになる。
Key words: schizophrenia, excitement, suicide attempt, pharmacotherapy, seclusion
4-6.精神科における身体疾患医療の問題点
−−国府台病院における経験を通して−−
浦田重治郎 齋籐万比古 塚田 和美 富山 三雄
早川 達郎 小石川比良来 榎本 哲郎 笠原 麻里
亀井 雄一 中島 常夫 伊藤 寿彦 室岡 守
抄録:精神科患者の身体疾患医療には,社会的偏見の医療への浸透と精神疾患の身体疾患への影響に対する理解不足という大きな障壁がある。国立精神・神経センター国府台病院では精神科と一般
科の協力により精神科患者の身体疾患医療を推進し,平成10年度には一般科で210名の入院を引き受け,また精神科入院中の患者の480名が一般
科を併診している。特に,整形外科,産婦人科,内科系各科での入院と,皮膚科,整形外科,歯科,内科系各科への併診が多かった。入院した身体疾患では骨折,妊娠・出産,悪性腫瘍,肺炎等が上位
を占めた。留意すべき点として「聴く耳・診る目」,「即応」,「振り分け」,「定点観測」を指摘し,また合併症の特徴について述べた。その上で,精神科患者への一般
医療での壁を取り除く方策として国公立総合病院への精神科の併置の義務化を提言した。
Key words: mentally illed inpatients, physical complication, general hospital
psychiatry
4-7.触法分裂病患者の治療
−−とくに重大犯罪を犯した患者について−−
花輪昭太郎 濱元 純一 後藤 文正
抄録:触法患者とは,責任能力の有無にかかわらず,刑罰法令に触れる行為を行った精神障害者を指す。わが国では,殺人など重大犯罪を犯した患者が長期入院を続けており,専門的な治療は行われておらず,統一された治療指針もない。「難しい患者」を含む,重大犯罪触法患者は個々に問題点を有し,苦労が多いが,根気強い治療と多職種による病院全体的な取り組み,作業療法士による病棟内レクリエーション活動等が有効であった。本院が不十分な体制のなかで,治療を行い得ている理由は,1)医療環境が良好,2)医師の熱意や指導性,3)県立病院の役割を認識,4)入退院が著しく,特別
視されない,5)民間精神科病院の協力,6)構造面の工夫,などがある。事例の報告と発生した事件の要因を分析し,治療につなげることが重要である。精神医療と司法の連携,十分なマンパワーのもとでの専門治療が望まれる。なお,殺人を犯して熊本県内の病院に入院中の分裂病患者調査を報告した。
Key words: schizophrenic offenders, serious crime, homicide, difficult patients
for treatment, special treatment
4-8.精神科救急診察における精神分裂病の診断評価と対応
飛 鳥 井 望
抄録:精神科救急では限られた時間と情報量の中で,できるだけ的確に診断・評価をしなければならない。その際の要点は,
1.器質症候性の可能性はないか, 2.アルコール・薬物性の可能性はないか, 3.精神病圏か神経症圏か,
4.自傷他害の危険性や医療的保護の必要度の判断,の4点である。救急診療では,激しい精神症状に目を奪われて身体合併症を見落とさないことが重要である。診断評価に必要な情報を効率的に聴取するためには,まず同伴者から話を聴き状況を把握する。問診の際は,落ち着いた物静かな態度と,簡潔でわかりやすい質問を心がける。自傷他害の危険性の予測,症状経過と周囲への影響の予測,身体状態,治療必要性についての患者の了解程度,家族など支え手の有無と能力などを検討し,救急入院とするか否かを決定する。不穏興奮状態,昏迷状態,慢性妄想状態のそれぞれについて評価と対応のポイントを解説する。
Key words: psychiatric emergencies, schizophrenic patient, evaluation, treatment
■第5章
5-1.初期分裂病の概念と治療
関 由賀子 中安 信夫
抄録:初期分裂病とは,従来前駆期と呼ばれてきた時期に特異的症状が存在することが見いだされて提唱された分裂病の病期型であり,また極期分裂病とは異なる治療法が要請される1つの臨床単位
である。初期分裂病の診断にあたっては出現頻度の高い10種の初期分裂病症状に注目することが重要である。治療の要諦は,
1.顕在発症を防止する, 2.著しい混乱と苦悩を軽減する, 3.初期症状を取り去るという3つの治療目標を前提に,緊迫困惑気分をいち早く感知し,粛然たる態度で臨むこと,微細な質疑応答によって体験の対象化・言語化を図ること,薬物としては第一選択薬は sulpiride,第二選択薬は fluphenazine(もしくは perphenazine)を,移行段階の患者には当初よりその両者を併用すること,さらには顕在発症を早期に頓挫させることを目的に haloperidol や chlorpromazine などの定型的な抗精神病薬の投与に踏み切ることである。
Key words: early schizophrenia, diagnosis, treatment
5-2.急性期の治療:状態像による治療
田 島 治
抄録:前駆期を経て発症し,生涯に亘り再発再燃のリスクを有する分裂病の治療においては,できるだけ早期に適切な薬物療法を開始して寛解に導き,長期の予後を改善することが急務となっており,薬物療法も急性期治療をスタートラインに縦断的な視点で行うべきである。分裂病の急性期治療においては,主に陽性症状の憎悪によって生じた社会生活の破綻と不適応状態の回復が目標となり,まず入院治療か外来治療のいずれが治療を適切に行えるか判断する必要がある。抗精神病薬の投与を開始する際には,1.薬剤の選択,2.治療効果
判定のために必要な期間,3.他の向精神薬併用の是非,4.抗パーキンソン薬の併用の是非,5.投与方法などが問題となるが,急速鎮静が必要な精神科救急を除けば,単剤,標準的な投与量
の経口投与が基本になる。長期投与の視点からは,急性期から非定型抗精神病薬を第一選択薬として用いるべきであろう。状態像別
に抗精神病薬を使い分けるエビデンスは乏しく,ここでは急性期薬物療法の原則,初回エピソードの治療,再発再燃例の治療,精神科救急の4つに分けて述べた。
Key words: acute schizophrenic episode, psychopharmacologic management, treatment
guideline, typical antipsychotics, atypical antipsychotics
5-3.陰性症状の治療
久住 一郎 小山 司
抄録:精神分裂病慢性期の陰性症状は,一次的なものと二次的なものとの鑑別が必要である。過鎮静があれば,抗精神病薬の減量
,多剤併用があれば,薬剤の整理,無動症があれば,抗パーキンソン薬の併用,気分の変調があれば,抗うつ薬や気分安定薬の併用,心理的・環境的要因があれば,環境調整や社会的リハビリテーションの適用が有効となることがある。最近,登場してきたセロトニン・ドパミン・アンタゴニスト(SDA)が陰性症状に対して有用であるとの報告も多く,わが国でも今後多数のSDAが臨床的に使用可能になれば,より適切な薬物療法ガイドラインが確立されていくことが期待される。
Key words: negative symptom, algorithm, serotonin‐dopamine antagonist (SDA),
antidepressant, mood stabilizer
5-4.寛解期の薬物療法
東間 正人 越野 好文
抄録:精神分裂病の寛解期の薬物治療は,再燃予防と副作用の軽減・予防を目的に,急性期治療に有効であった薬物を減量
して,持続的に投与することが基本である。減量投与には常に再燃の危険が伴うため,数カ月かけてゆっくり減量
する必要がある。服薬期間や減量法などその根拠となる証拠に乏しく,現時点では,再燃の前駆症状と遅発性ジスキネジアなどの出現に注意しながら,投与量
を判断すべきである。近年,risperidoneをはじめとするセロトニン・ドーパミン拮抗薬が急性期治療の第1選択薬となりつつあり,寛解期治療でも大いに期待されるが,その維持療法中の再燃率や遅発性ジスキネジアの出現率などが今後検討されるべき課題である。
Key words: schizophrenia, maintenance therapy, antipsychotic drug, remission
5-5.持効性抗精神病薬(デポ剤)を用いた分裂病治療
藤 井 康 男
抄録:デポ剤のメリットは,コンプライアンスの保障と消化管や肝臓による初回通過効果
を避けられるのでより安定した活性薬物濃度が得られるという2点である。デポ剤による維持治療成績は経口薬よりも明らかに優れているにもかかわらず,日本では十分これが生かされていない。デポ剤への誤解を改め,適応患者の正しい選択や導入方法,各種デポ剤の使い分けなどについて理解を深めることが大切である。デポ剤単独治療はデポ剤のメリットを最大限に発揮できる治療方法であり,もっとこれを積極的に目指すべきである。またデポ剤と経口薬の併用を選択する場合でも明確な戦略の基にこれを行い,多剤併用のさらなる上乗せにならないように注意しなければならない。Risperidoneやolanzapineなどの新しい薬物はすべて経口薬であり,今後しばらくの間は,従来の抗精神病薬のデポ剤と非定型抗精神病薬の使い分けが重要であろう。
Key words: haloperidol decanoate, fluphenazine decanoate, fluphenazine enanthate,
depot neuroleptics, schizophrenia
5-6.難治性精神分裂病の診断と治療
堀 彰
抄録:精神分裂病の薬物療法の結果では,病状改善がみられない難治性精神分裂病は約30%であり,予後調査の結果
では重症・未治に至る難治性精神分裂病は現在でも20%前後認められる。難治性精神分裂病の診断基準としては,薬物反応性に注目した薬物抵抗性の基準と,経過と転帰に注目した基準がある。我々の診断基準による難治性精神分裂病は,陰性症状だけではなく陽性症状も重症であり,大量
の抗精神病薬を投与され,levomepromazineの投与割合が多く,lithium carbonate,carbamazepine,抗不安薬が一部で併用投与されていた。難治性精神分裂病の治療法に関しては,抗精神病薬の増量
あるいは減量,他の抗精神病薬への変更,非定型抗精神病薬のうち難治性精神分裂病に有効なcloza‐pineの投与,有効性が報告され広く使用されているlithium
carbonate,carbamazepine,benzodiazepine系薬物および電気けいれん療法の併用が考えられる。
Key words: schizophrenia, refractory, criteria, treatment
5-7.妊娠中,授乳中の薬物療法
松 島 英 介
抄録:妊娠,授乳期に精神分裂病が初発することは極めて少なく,問題となるのは再発・再燃例である。しかも,多くは既に通
院服薬中の患者に妊娠が判明したり,妊娠中に再発したことによって通院が中断していた精神科を再初診する場合が多く,向精神薬による催奇形性の懸念よりも,精神症状の管理を重視して臨機応変に対応せざるをえないことが多い。こうした妊娠,授乳期の分裂病患者に対して抗精神病薬を中心とした向精神薬を投与する際には,患者の精神状態の的確な把握とともに,それぞれの薬物の母体や胎児,新生児に与える影響について十分検討した上で,向精神薬の選択をすることが必要になってくる。また,夫をはじめ家族に精神分裂病やそれに対しての治療の可能性,使用する向精神薬の母体や胎児への影響について十分に理解してもらい,協力援助をお願いするとともに,場合によっては保健婦や地域の児童相談所,乳児院などを利用することも考慮しなければならない。
Key words: schizophrenia, pregnancy, lactation, psychotropic drug, teratogenicity
5-8.抗精神病薬治療におけるTDMの有用性と問題点
染矢 俊幸 鈴木雄太郎
抄録:現在,haloperidol(HAL),bromperidol(BRP)についての血中濃度測定(TDM)は保険診療で行うことができるため,手軽に臨床に活かすことができるはずであるが,コンプライアンスの確認にしか用いられていないことが多く,その有用性の理解が一般
には不十分である。HAL,BRPには,それ以上増加させてもさらなる治療効果が期待できない「治療的飽和」があり,さらに,もともとこれらの薬物に対する反応性の悪いnonresponderが患者の中に存在することなどが,血中濃度と臨床効果
との関係に対する誤解をもたらしている可能性がある。本稿では,このような血中濃度と臨床効果
の関係と,実際にTDMを行う上での問題点を,薬物動態学的観点から検討した。
Key words: haloperidol, bromperidol, TDM, therapeutic plateau, pharmacokinetics
5-9.抗精神病薬の副作用
−−1.錐体外路症状−−
原 田 俊 樹
抄録:抗精神病薬の副作用として最も一般的でかつ重要なものが錐体外路症状である。錐体外路症状の出現はhaloperidolなどの高力価薬物で多く,chlorpromazineなどの低力価薬物で比較的少ないが,それ以上に患者の個体差が大きく関与する。錐体外路症状の多くは抗精神病薬投与初期に強く現れ(急性副作用),持続的な使用で耐性を生じ現れにくくなる。その代表にパーキンソニズムがある。逆に長期使用によって生じる錐体外路症状(遅発性副作用)もあり,その代表に遅発性ジスキネジアがある。遅発性副作用は難治のものが多い。錐体外路症状の中にはパーキンソニズムの無動(アキネジア)やアカシジアのように精神分裂病の症状やその悪化と見誤りやすいものがあり,抗精神病薬の増量
でさらに悪化することがある。最近では非定型抗精神病薬を始めとする錐体外路症状の少ない薬物も多く開発されてきたが,それによる遅発性ジスキネジアの報告もある。
Key words: acute dystonia, Parkinsonism, akathisia, tardive dyskinesia,
tardive dystonia
5-10.副作用とその対策
−−2.自律神経,内分泌系,水中毒−−
伊藤 千裕 斎藤 秀光
抄録:抗精神病薬の副作用というと,すぐに錐体外路症状や悪性症候群のみに関心が向けられるが,意外と忘れてはならないものは,自律神経症状や内分泌系症状などのその他の副作用である。なぜなら,これらの副作用は治療上しばしば患者の苦痛感を伴い,コンプライアンスを低下させるだけではなく,時には突然死や水中毒による死をきたす重篤な結果
を及ぼす場合があるからである。そこでこの章では,抗精神病薬によってもたらされる自律神経症状,内分泌症状(特に水中毒)およびその他の副作用に関して,その対策も含めて,抗精神病薬の種類や作用機序の観点から整理して述べる。
Key words: antipsychotics, side effects, autonomic nervous system, endocrine system,
water intoxication
5-11.副作用とその対策
−−3. 悪 性 症 候 群−−
西 嶋 康 一
抄録:悪性症候群は,抗精神病薬の最も重篤な副作用である。その治療の基本は,早期発見と原因薬剤の中止に,輸液・体温冷却などの保存的治療である。薬物療法として,dantroleneやドーパミン作動薬などが使用される。悪性症候群の経過中に精神症状が増悪する場合は,電気けいれん療法が有効であるが,慎重な身体管理のもとで無けいれん性で行うべきである。悪性症候群の発現頻度は低いが,抗精神病薬の投与中は常に本症候群の発生に注意する必要がある。
Key words: neuroleptic malignant syndrome, dantrolene, bromocriptine, levodopa,
ECT
5-12.精神分裂病治療におけるベンゾジアゼピン併用療法
樋 口 輝 彦
抄録:精神分裂病治療におけるベンゾジアゼピン併用の意味を考察した。二重盲検比較試験の結果
を見る限りでは,ベンゾジアゼピンの併用は有効とする報告が多い。この場合,標的症状は不安,焦燥に限らず,分裂病の中心症状(陽性,陰性症状)も含まれる。ベンゾジアゼピンの中では半減期の長いlow
potencyの薬剤を用いることが勧められる。抗精神病薬に抵抗性の分裂病に対して併用する意味はあると思われるが,2週間の投与で改善が見られない場合は早々に中止すべきであろう。わが国で作成された精神分裂病のアルゴリズムにおける併用療法の部分を参考までに引用掲載した。
Key words: benzodiazepines, schizophrenia, combined treatment, antipsychotics
5-13.精神分裂病治療における抗うつ薬の併用
樋 口 輝 彦
抄録:精神分裂病治療に抗うつ薬を併用することの意味について考察した。多くの検討は1960〜70年代に行われており,まず急性期の分裂病に抗うつ薬を併用することは意味がない(場合によっては悪化させる)ことは確かである。次に陰性症状に対しても三環系抗うつ薬については,ほぼ否定的であり,四環系にわずかな可能性が示唆される。精神病後抑うつについては,否定的な報告もあるが,有用性を指摘する報告が上回っている。最近話題のSSRIについてはまだ検討が始まったばかりだが,効果
発現が早い,副作用が少ない,再燃の危険率が低いなど有利な点があるとの指摘がある。
Key words: combined drug treatment, antidepressants, antipsychotics, schizophrenia
5-14.精神分裂病治療における抗てんかん薬併用
松浦 雅人 小島 卓也
抄録:Carbamazepineは,通常の抗精神病薬治療に反応しない治療抵抗性の精神分裂病,とりわけ躁的興奮,衝動性,攻撃性をもつ例に付加療法として用いられる。また,陽性症状や陰性症状が持続する慢性期の精神分裂病に対しても試みる価値がある。分裂感情障害に対してはさらに高い効果
が期待される。強力な代謝酵素誘導作用により,抗精神病薬の血中濃度を低下させるが,極端に低下する例を除いて,精神症状が悪化する例は少ない。しかし,抗精神病薬との併用により急性carbamazepine中毒,せん妄,QTc時間延長などが報告されている。治療抵抗性の精神分裂病に対してvalproate併用も試みられることがある。分裂感情障害に対しては感情障害により近い亜型への効果
が主のようである。酵素阻害作用をもち,抗精神病薬との併用で双方の血中濃度が増加し,過鎮静や錐体外路症状が増強することがある。Clonazepamは急性精神病の不安,焦燥,不眠に対して,あるいはアカシジアやレストレスレッグス症候群の治療に,抗精神病薬に併用される。一般
にベンゾジアゼピン系薬剤の効果は個体差が大きく,漫然と長期投与すべきでない。Phenytoinやbarbiturateには気分安定化作用はない。日本では未発売の新しい抗てんかん薬であるgabapentinやlamotrigineに向精神作用が期待されている。
Key words: carbamazepine, valproate, clonazepam, therapy‐resistant schizophrenia,
schizoaffective disorder
5-15.睡 眠 薬
多田 幸司 小島 卓也
抄録:精神分裂病の不眠に対する薬物療法は他の精神障害に伴う不眠と相違点がある。ここでは精神分裂病に伴う睡眠障害に対する睡眠薬の使用方法および注意点について簡単に述べた。
Key words: schizophrenia, hypnotics
■第6章
6-1.分裂病障害に対する作業療法
山 根 寛
抄録:分裂病とそれにともなう生活の障害は, 1.疾患と障害の共存, 2.障害の相対的独立性,
3.相互の影響性, 4.環境との相互作用, 5.健康的側面の影響, 6.障害の可逆性, 7.二次障害の可能性,
8.長期入院による二次的障害といった特性をもつ。そうした分裂病障害に対して,作業療法は,1.本人の希望を重視し,2.本人の主体的参加を促し,3.本人の能力を生かし,4.環境を調整し,5.その個人が生活する環境への適応をはかるという生活の再建に視点をおき,再発再燃を防ぎ,入院が必要なら早期短期にすませ,波状に経過する安定期をいかに長くするかを基本原則としてかかわる。作業療法は他の治療と相補することで意味をもち,チームアプローチの一環として,機能障害の軽減,二次的障害の防止を目的とする早期のリハビリテーションから,適応的な生活技能の習得,対象者が選んだ生活の場への適応支援まで,障害構造や回復過程に応じ,支援を一貫して行う。
Key words: occupational therapy, schizophrenia, psychiatric rehabilitation, rehabilitation
process
6-2.集団を用いた活動療法
池 淵 恵 美
抄録:分裂病の治療として,レクリエーション,スポーツなど集団による活動療法が日常的に行われている。こうした治療活動は我が国では生活療法として知られ,英米では,社会療法,環境療法などといわれてきた。近年は精神科リハビリテーションと呼ばれることが多いが,社会生活のなかで自己のあり方を,適切な集団体験を通
して学習するところに共通点がある。望ましいプログラムは,急性期後にはSSTや疾患への心理教育,回復期には社会的能力の再建に取り組むための集団活動の特性を活かし,個人の志向に応じることのできる多様なメニュー,そして社会への再参加を援助する居住訓練など,回復の時期により異なる。集団運営の技術としては,まず安全感の保障があり,次に自主性の発揮や楽しむ体験のできる集団であることと,多様な生活学習の体系的援助があげられる。医療機関でのこうした治療は,長期にわたる地域リハビリテーションの入口であり,また集団を用いた治療の技術は地域リハビリテーションに活かされるべきものと思われる。
Key words: group therapy, social therapy, activity group, social learning, psychiatric
rehabili‐tation
6-3.分裂病の認知行動療法
−−社会生活技能訓練(SST)の実際−−
數 川 悟
抄録:社会生活技能訓練(Social Skills Training; SST)は,社会保険診療報酬の点数化がなされ,急速に普及した。精神科リハビリテーションの進展のなかで,治療技法として認知され広く実践されるようになった。社会復帰関連施設などでの適用も行われ,技法の改良や研究も進んできている。精神分裂病の基本症状としての認知障害については古くからの検討がある。それにいかに関わるかという治療的視点と,行動療法発展の過程との接点に,今日の分裂病に対するSSTがある。その方法の概略と実施上留意すべきことについて述べた。SSTは,分裂病に対して適用されてからまだそう長くない。治療技法として持つ課題も多いが,汎用性,実用性は極めて高く,その有効性も明らかにされてきている。治療技術としての洗練と,実証的な研究の積み重ねが期待される。
Key words: schizophrenia, social skills training, cognitive‐behavioral therapy,
rehabilitation
6-4.芸 術 療 法
−−絵画療法を中心に−−
中 村 研 之
録:精神科治療の大きな2つの柱として,薬物療法と精神療法があるが,精神分裂病においては「言語危機」と言われるように,さまざまな言語レベルでの障害を被るために,通
常の言語的精神療法は適応困難である。それに代って,非言語的な,芸術媒体を使用する芸術療法はきわめて有効な治療手段となりうる。芸術療法には絵画療法,音楽療法,ダンス・ムーヴメント療法,詩歌療法など各種存在するが,ここでは絵画療法を中心に概説した。分裂病への適応にあたっては,病状や時期に応じて技法を選択し,また施行上の危険性にも配慮する必要がある。治療者は実施に際して,傍観者となることなく「関与しながらの観察」が重要である。芸術療法の理論面
では言語的か,非言語的か,という議論があるが,芸術とは言葉を超えたところにその独自性と有効性があると筆者は考えている。
Key words: arts therapy, schizophrenia, non‐verbal psychotherapy
6-5.電 気 療 法
−−電気けいれん療法(electroconvulsive therapy)の実践指針−−
一瀬 邦弘 土井 永史 中村 満
諏訪 浩 竹林 宏 益冨 一郎
佐藤 裕史 永嶋 弘道 樽矢 敏広
抄録:精神科電気けいれん療法(electroconvulsive therapy;ECT)は,かつて電気ショック療法と呼ばれ,歴史的に暗いイメージがつきまとってきた。しかし,いまでは必要な内科医のチェックの下に,麻酔科医の全身呼吸・循環管理の中で,熟練した精神科医によって手術室で行われる。十分な筋弛緩薬の投与によって,全身けいれん発作はコントロールされる。現在のECTはいかに安全に行うかが最大の関心事となって,その適応もひろがりつつある。向精神薬による治療の限界が問題となっている今,ECTについての科学的検討が多方面
から早急になされなければならない。ECTを適用する上で最も大事なのは,救急で来院した患者をいかに早く,脳器質性疾患や症状精神病を除外し,精神医学的診断を的確に下すかという診断技術の向上であると考える。
Key words: electroconvulsive therapy, electro‐shock therapy , ECT, EST, Cymatrone
■第7章
7-1.リハビリテーションの効果を促進させるための留意事項
川 室 優
抄録:分裂病患者のリハビリテーション(以下リハビリと略す)は,精神科医療の中で薬物療法と共に重要な治療的援助技法である。特に,分裂病の慢性化防止には,発病時の陽性症状消退後,回復過程で,生活能力低下による情報処理機能や対人関係などの障害改善や家族関係調整に重きを置き,リハビリ治療を行うことが大切である。リハビリの効果
を促進させるための留意事項を次にまとめてみた。 1.インフォームドコンセント, 2.分裂病患者への援助原則(チームアプローチ),
3.自己決定の尊重と責任, 4.地域ケアサポートシステムの充実(例:上越つくしの里),
5.リハビリ過程の配慮(治療プロセス), 6.構造的リハビリ技法の展開時の注意(社会資源利用)などである。以上の留意事項を受け止めながら,リハビリの「連続性」に常に配慮していくことが重要であり,それによって,分裂病患者のリハビリの長期目標となる
1.全人間的復権, 2.エンパワメント, 3.自立と社会参加が実現可能となる。
Key words: rehabilitation, community care support system, SST, therapeutic rehabilitation,
warning' sign
7-2.分裂病患者および家族に対する心理教育
前田 正治 内野 俊郎
抄録:家族に対しても,あるいは患者に対しても心理教育と称して行われる技法は数多く,そのために混乱はみられるものの,肝要なことは技法そのものよりもむしろ治療者の姿勢であると考える。また心理教育は特殊な技法であってはならず,できれば日常的に構造化して行うべきものである。そうした前提に立って,心理教育の具体的なすすめ方について述べた。
Key words: schizophrenia, psychoeducation, advocacy
7-3.社会復帰施設(住居施設)とその利用法
藤本 豊 伊勢田 堯
抄録:本稿では, 1.精神障害者地域生活援助事業(グループホーム), 2.生活訓練施設(援護寮),
3.福祉ホームの3種類の精神障害者のための社会復帰住居施設について,施設側の視点で以下のことを論じた。1.社会復帰施設設立から現在までの経緯,2.施設の種類の概略,3.福祉施設としての限界,4.受け入れ手続きと注意点,5.受け入れ後の利用者の心的状況の分析, 以上の5点について,実際に施設運営に関わる職員として日頃感じていることを中心に,具体的に施設の現況を論じた。
Key words: law on mental health and welfare for people with mental disorders,
group homes, welfare homes, daily life training facilities
7-4.精神科デイケアと社会復帰相談指導事業
角 谷 慶 子
抄録:デイケアの歴史とその発展を概括し,その治療的要因である(1)安全感の保障・所属感の獲得,(2)対人的相互作用・集団力動,(3)遊びを中心とした多彩
な活動による内発的な動機づけ・賦活化,(4)主体性と役割意識・自己効力感の獲得,(5)社会的模擬行為・社会生活技能の獲得,(6)障害者同一性の獲得・自己価値の再編,について述べ,援助する場合の留意点についても触れた。
また,昨今,国の政策的支援により急増している精神科デイケアを,治療としての観点から定義し,生活支援的関わりである保健所における社会復帰相談事業と区別
した。 各種のリハビリテーション関連施設の充実に伴い,デイケアは今,そのアイデンティティを問われているが,その構造を生かし,集団療法と,精神療法,生活指導,ソーシャルワーク等を含む個人療法が適切に組み合わされてこそ,デイケアが最も効果
的になると論じた。
Key words: partial hospitalization, day care services, therapeutic factors, group
therapy,
individual therapy
7-5.地域にある社会資源の利用方法
野 中 猛
抄録:精神分裂病をもつ人々の地域生活を支援するために,多様な社会資源を利用することの必要性と原則を整理した。精神障害者に限定された社会復帰施設以外にも地域には多様な社会資源が存在する。本論では特に,保健や福祉機関とその事業,各種の労働関連施策について,現実の状況や実際的な利用方法に注目して簡潔に紹介した。ケースマネジメント技術の視点では専門的ケアに関するアセスメントの作業に位
置づけられる。
Key words: psychiatric rehabilitation, community mental health, social resources,
needs,
case management
7-6.精神保健福祉士
−−ケアマネジメントの担い手の視点から−−
安 西 信 雄
抄録:精神保健福祉士の国家資格化は,従来の精神科ソーシャルワーカー(PSW)業務に変化をもたらし,改めてPSWとは何かを問いかけることとなった。この国家資格化は地域医療への展開の担い手として精神保健福祉士が位
置づけられたことを意味するが,わが国でも導入が試みられているケアマネジメントが本格化すれば,精神保健福祉士の役割はさらに大きなものになるであろう。こうした視点から,精神保健福祉士に期待される専門家としての力量
について考察した。
Key words: psychiatric social worker, care management, community, psychiatric
rehabilitation, qualification
7-7.家 族 会
白 石 弘 巳
抄録:日本の精神障害者家族会は,世界でもっとも早く1965年9月に全国組織(全国精神障害者家族会連合会)が結成され,1999年1月現在単位
家族会が約1,500カ所あり,約13万人の会員を擁し活発な活動を展開している。単位
家族会では,年1回の総会と月1回程度の例会をベースとして,1)支え合い,相談活動,2) 学習活動,3) 作業所を運営するなどの精神障害者への支援活動,4) 陳情活動や募金活動,5)啓発活動などが行われている。こうした活動の結果
として,元気を回復したり,自立したり,隠さずに生きる道を選ぶに至った家族が多数存在する。一方で,専門家に支えられて存続している家族会や高齢化が進むなど衰退気味の家族会もある。専門家が,家族会からの依頼に応じたり,家族会に関する情報提供を行う一方で,家族会に調査研究などについて協力依頼ができるような相互支援的な関係を構築することは双方にとって意義がある。
Key words: schizophrenia, family, self help group, recovery
■付 録
付-1.結婚および出産をめぐる質問と相談
南光 進一郎
抄録:「相談」は「質問」と異なり助言が期待されている。助言にありがちな個人的な人生観の反映を避けるために,関係者がグループで話し合うことが重要である。その結果
として相談者のおかれている状況,相談に至った背景が把握でき,これがまた患者に治療的に働くものであることを総論的に述べた。次に分裂病患者の結婚や出産に際しておきる主な質問と相談について述べた。その多くは長期間にわたる服薬に関連したものである。最後に遺伝相談について付記した。
Key words: marriage, birth, compliance, teratogenicity
付-2.精神科医が知っておくべき医療事故の判例
松 岡 浩
抄録:精神科医療事故に関する裁判例20件ほどを紹介する。説明と承諾2件,説明の内容1件,他害事例・自殺事例各6件,その他の事故4件である。司法判断は,医療判断とは異なる側面
が多い。
Key words: medical accident, negligence, foreseeability, avoidability