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■特集 感覚受容の分子機構一一味覚,嗅覚,体性感覚を中心として

●嗅覚受容の機序
倉橋 隆
 嗅細胞における刺激受容の概略を述べる。匂い受容の分子機構,匂い効率,順応と疲労,細胞内因子活性の定量化,ホルモンによる嗅覚受容の修飾の分子機構,それに関連してヒト嗅覚の月経周期内変動に関して最新科学データを解説する。
key words: Olfaction, cAMP, electrophysiology, adaptation, ion channel

●嗅細胞特異的ストマチン関連タンパク質SROと匂い識別の分子機構
小早川 高  林 令子  坂野 仁
 匂い分子を受容する嗅細胞は双極性の神経細胞で,細胞体から1本の樹状突起と1本の脳へ投射する軸索を伸ばしている。樹状突起の先端には,匂い分子を受容しこれを電気信号へと変換する場となる嗅繊毛が存在し,匂い分子の受容体である嗅覚受容体が局在している。嗅覚受容体に匂い分子が受容されたという情報は,嗅細胞特異的Gタンパク質(Golf)と,アデニル酸サイクラーゼ(ACIII)を経てサイクリックAMP濃度の上昇を引き起こし,サイクリックヌクレオチド依存性チャンネル(oCNC)を開かせる。嗅細胞の繊毛にはこの一連のカスケードで機能する複数のタンパク質が複合体を形成して存在すると考えられている。本稿では,この繊毛に特異的に局在し匂いシグナルの伝達を制御すると考えられる新たなタンパク質,stomatin-related olfactory protein(SRO)を紹介するとともに,匂い識別の分子機構に関する最近の知見をまとめる。
key words: SRO, olfactory neuron, stomatin, ACIII, lipid rafts

●嗅覚障害の診断  一現状と展望一
三輪 高喜  古川 仭
 わが国には相当数の嗅覚障害患者がいるが,その多くが自ら診療所を訪れず,受診しても満足な治療を受けていないものと思われる。本稿では嗅覚障害の診断における現状と将来の展望について報告した。病医院を訪れる嗅覚障害の原因の多くは慢性副鼻腔炎など鼻副鼻腔疾患による障害であり,それに次いで感冒罹患後,外傷性が原因として挙げられるが,原因のわからないものあるいは加齢による低下も相当数含まれている。これらの原因を判別するには,鼻副鼻腔疾患は鼻内所見や画像診断から容易に診断可能であるが,それ以外は問診に頼らざるを得ないのが現状である。嗅覚検査法としてはT&Tオルファクトメータを用いた基準嗅力検査と,アリナミンを用いた静脈性嗅覚検査がわが国において一般的な検査法であるが,前者の普及率は決して高くない。現在開発中のスティック型ニオイ提示具が近未来の検査法として普及する可能性を秘めており,その応用範囲も広い。さらに他覚的嗅覚検査法も様々な方面から開発が進められており,この中から臨床で用いることのできる検査法が出現することを期待している。
key words: absolute pitch, music, brain plasticity, pitch naming

●冷・メントール受容体と冷感
岡澤 慎  小林 茂夫
 視覚などに比べ体性感覚器,特に温度受容器の研究は遅れていた。しかし,ここ数年で温・冷受容器のイオン機構・分子機構の解析が急速に進んだ。カプサイシン受容体であり侵害性熱受容体でもあるVR1(TRPV1)のクローニングを皮切りに数個の温受容体が同定された。冷受容体もそのイオン機構が明らかになるとともに,冷・メントール受容体(CMR1/TRPM8)がクローニングされた。CMR1は冷とメントールに反応してカチオンチャネルを開くイオノトロピックレセプターだった。すなわち,冷却とメントールはいずれも冷線維の遠位端にあるCMR1を活性化することで冷線維を興奮させる。冷線維を上向するインパルスが体性感覚野の標的を刺激する時,メントールを塗った皮膚が冷たいとの感覚が生れると考えられる。
key words: menthol, cold channel, cold sensation, dorsal root ganglion, CMR1/TRPM8

●味覚受容の分子機構 マウス味蕾細胞における各種イオンチャネルおよび各種神経伝達物質受容体の役割
吉井 清哲
 味蕾細胞は,外界に露出した受容膜で味物質を検出し,細胞間密着結合で外界から保護されている基底膜から化学シナプスを介して味神経に味情報を送り出す。このため,味蕾細胞は各種イオンチャネルを受容器電位/起動電位発生,神経伝達物質放出に利用している。イオンチャネルの膜電位への寄与は,イオン濃度に依存する。受容膜と基底膜では,そのイオン環境安定性が著しく異なるため,これらの部位に発現するイオンチャネルの役割も異なる。我々は,密着結合を保存したマウス味蕾細胞標本を開発し,イオンチャネル発現部位を同定している。また,脱分極性受容器電位を発生するマウス味蕾細胞が集合していること,基底膜に神経伝達物質受容体が発現していることから,味蕾細胞ネットワークの存在を予想している。本稿では,各イオンチャネルの発現部位と味蕾細胞機能における役割を解説し,マウス味蕾細胞ネットワーク存在の可能性について検討する。
key words: in-situ tight-seal patch-clamp, tight junction, cell-network

●味覚障害の臨床とくに自発性異常味覚と特発性味覚障害
冨田 寛
 日本の現代病として増加している味覚障害は,食品中の必須微量栄養素である亜鉛の摂取不足,および肝,腎その他の全身疾患による亜鉛吸収不全や排泄の増加によって,全身が亜鉛欠乏状態に陥り,亜鉛をとくに必要とする味蕾の味覚受容器の機能不全によって起こることが多い。  味覚異常の7通りの起こり方と診察法,味覚障害の原因分析,治療とくに亜鉛内服療法の効果について述べた。  とくに今まで不明な点が多かった,味覚異常の愁訴のひとつ,自発性異常味覚の解析,および食事性亜鉛欠乏が最大の原因である特発性味覚障害の新しい診断基準について論及した。
key words: taste disturbance, subjective, dysgeusia, idiopatic taste disorder, dietary zinc deficiency, flow chart for diagnoses and therapies of the taste disorders

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