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■特集 ジストニア-診療と研究の最前線

●ジストニアとは 概念,症候,分類
柳澤 信夫
 ジストニアは臨床上も学問的にも興味深い病態である。しかし歴史的に概念の混乱があり,また中核疾患である特発性捻転ジストニアは多彩な症状を呈することから,神経内科医にも理解の困難がある。ジストニアというとき,それが病態を指すのか,疾患を指すのかをまず明確にしなければならない。更に症候名として用いる時は,異常姿勢としてのジストニア姿勢,あるいは不随意運動としてのジストニア運動,あるいは随意運動障害としての動作性ジストニアと三者があることに留意する。これらは各々症候としてのみでなく,基礎疾患も発現機序も異なる。  ジストニアの機序としては,伸張反射の亢進である筋固縮と,姿勢反射の異常が重要である。また動作性ジストニアは,目的動作に際して筋活動の組織化が中枢性に障害される結果である。基底核-視床-大脳皮質系の運動統御系の障害に加えて,近年は過剰な骨格筋使用による職業性筋痙攣に関連して,感覚情報処理の異常が指摘され,注目される。
key words: dystonia, action dystonia, torsion dystonia, writer’s cramp

●ジストニアの病態生理 ジストニア発現の解剖学的,生理学的背景
寺尾 安生  宇川 義一
 ジストニアの表面筋電図は,主動筋と拮抗筋のco-contractionや不必要な他の筋肉も同時に収縮してしまうことを特徴とする。その原因の1つとして,脊髄レベルで相反抑制の欠如があることが指摘されている。しかし,一次的な原因は脳,特に被殻を中心とする基底核から脊髄や脳幹の神経回路に下降する出力の異常が重視されている。神経機能画像あるいは脳内電極の記録から,ジストニアの基本病態は直接路である線条体-淡蒼球系の活動が亢進し,淡蒼球内節の活動が抑制される状態であると考えられる。その結果淡蒼球内節からの出力は減少し,視床及びそこから投射をうける前頭前野や運動前野などの活動亢進が認められる。逆に一次感覚運動野の活動は低下している場合もある。薬理学的にはジストニアはコリン系の機能亢進状態,ドーパミン系の機能亢進,あるいは低下状態などさまざまな病態がある。
key words: co-contraction, basal ganglia, reciprocal inhibition, sensori-motor integration intracortical inhibition

●早期発症捻転ジストニア(DYT1)の病態
松本 真一  梶 龍兒
 典型的なDYT1遺伝子変異を伴うジストニアは5〜15歳の小児期に下肢(または上肢)より発症する。身体の成長と共に症状が拡がり,約5年で全身性のジストニアとなり,臥床状態となる。本疾患は発症年齢により,予後が大きく異なる。小児期発症の典型例では,局所から全身へ症状が拡がるが,成人発症例では局所にとどまる。また,DYT1遺伝子変異は常染色体優性遺伝であるが,浸透率が低く保因者の70%が非発症である。本症は原因遺伝子(DYT1)が,第9番染色体長腕に連鎖することが解明されている。
key words: dystonia musculorum deformans, Oppenheim’s dystonia, idiopathic torsion dystonia, early-onset torsion dystonia, DYT1

●瀬川病(優性遺伝性GTPシクロヒドロラーゼ欠乏症)の病態
瀬川 昌也
 瀬川病の病因は,その臨床経過と黒質線条体(NS)ドーパミン(DA)ニューロン終末部チロシン水酸化酵素(TH)活性の継年齢変化との対比及びL-Dopaの効果から,形態学的異常はなく,NS-DAニューロン終末部THの減少にあると考えられた。これは後に組織化学的に実証され,GTPシクロヒドロラーゼ1遺伝子のヘテロの異常に起因するテトラヒドロビオプテリン(BH4)の部分欠損によることが証明された。近年は線条体のTH蛋白の減少が主病因と考えられている。病態はD1受容体―線条体直接路,大脳基底核下降性出力系を介し姿勢ジストニーを,視床下部のD1受容体の活性低下が,大脳基底核の視床VL核への投射路を介し姿勢振戦を,D2受容体・間接路を経て視床Vo核への投射路を介し動作ジストニーを発現すると予想される。しかし,ヘテロの遺伝子異常がTHを選択的に障害,固有の症状を発現する機序は今後の解明が待たれる。
key words: Segawa’s disease, autosomal dominant, GTP cyclohydrolase 1 deficiancy, dystonia, tetrahydrobiopterin, tyrosine hydrocylase protein

●抗精神病薬による遅発性ジストニア
渡辺 崇  秋山 一文
抗精神病薬の長期投与に続発した中枢神経系に生じた変化を基盤にして,錐体外路症状が出現することがあり,これを遅発性錐体外路症状と呼んでいる。
 遅発性ジストニアは,遅発性錐体外路症状の1つで,痙性斜頸や躯幹部の側湾,捻転などの頸部や躯幹を中心にみられる持続性な筋収縮のことを指す。
 遅発性ジストニアの発生機序は解明されていないが,その背景にはドーパミン系,アセチルコリン系,ノルアドレナリン系,GABA系の異常など多様な神経伝達物質系の病態が存在すると推定されている。
 遅発性ジストニアは難治性で,治療反応性には個体差がある。治療手順として,まず,抗精神病薬を徐々に減量し,減量により精神症状が悪化するなど困難が生じる場合には,錐体外路系への副作用がより少ない抗精神病薬に変更する,錐体外路症状に効く薬を投与する,などの方法をとる。
key words: tardive dystonia, etiology, dopamine, acetylcholine, treatment

●ジストニアの薬物治療 一般経口薬からボツリヌストキシン注射治療まで
目崎 高広
 ジストニアに対する内服薬はtrihexyphenidylを第一選択とするが,確実な効果はなく,副作用のため十分な増量ができないことも多い。この他にも種々の薬物が試みられるが,いずれも有効性は十分とはいえない。その中で,mexiletineについては症例を選べば高い有効率が期待でき,今後の追試が待たれる。内服薬以外では,lidocaineとethanolとを10:1で筋肉内注射するMAB療法が,痙性斜頸,書痙や口・下顎ジストニアなどに試みられ,有効であったと報告されている。このうち痙性斜頸については,ボツリヌス治療が本邦でも解禁されたのに伴い,第一選択はボツリヌス治療となった。現在,ボツリヌス治療の適応症は眼瞼痙攣,片側顔面痙攣,痙性斜頸の3疾患のみであり,off-label useは厳禁されている。局所性ジストニアについてはボツリヌス治療が本来最も望ましく,更なる適応拡大が期待される。
key words: dystonia, medication, muscle afferent block, botulinum toxin

●ジストニアに対する定位脳手術
島 史雄
 特発性ジストニアは,小児期に発症すると全身に分布しやすく,思春期以後に発症すると顔,頸部,上肢に限局しやすい。本症の定位脳手術には,視床VL核と淡蒼球内節手術がある。ジストニア41例に対する著者らの治療経験によると,小児期発症例は淡蒼球手術で著効を得ることが多く,成人発症例のうち,上肢と顔面に限局した例は視床手術で良い結果を得た。症状の分布が発症年齢によって異なり,それぞれ手術部位が異なることは,淡蒼球に発達時期が違う二つの遠心路の存在と関連すると思われる。ジストニアは手術効果が永続することが多く,もっとも良い外科治療の適応症である。稀に淡蒼球手術後,症状が悪化する症例があるが,最近,DBSが本症にも応用されるようになり,より安全な外科治療が可能になった。
key words: dystonia, stereotactic surgery, VL-thalamotomy, pallidotomy, DBS

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