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■特集 脳外傷による高次脳機能障害

●脳外傷による高次脳機能障害について
南雲 祐美  加藤元一郎
 外傷性脳損傷(Traumatic Brain Injury:TBI)とは,外部からの圧力が原因となって生じる脳へのダメージであり,様々な原因により生じる。外傷性脳損傷後の亜急性期および慢性期には,認知的な能力の欠損,情動的障害,さらには日常生活上の様々な行動障害がしばしば生じる。外傷性脳損傷例の記憶障害は,外傷性健忘を含む前向性健忘と短期間の逆向性健忘から成り,その特徴は回復する可能性が高いことである。また,外傷性脳損傷例では,その損傷が軽度な場合でも注意と情報処理の障害が出現し,この障害のみが選択的に生じることもある。典型的な失語は生じにくいが,微細な言語障害が観察されることが多い。また,視覚失認などの高次視知覚障害の出現頻度も低く,むしろ末梢性の視覚機能障害が多い。遂行機能障害は高頻度で出現する。特に,前頭葉眼窩部の損傷に伴う日常生活レベルの行動障害がしばしば出現する。
key words: traumatic brain injury, higher brain dysfunction, memory impairment, attentional deficit, executive impairment

●脳外傷実験モデルにおける高次脳機能障害
沢内 聡
 脳損傷による高次脳機能障害の病態の解明には,臨床的な事例のみでなく,動物実験モデルでの検討が必須であることは論を待たない。本稿では,外傷実験モデルによるびまん性軸索損傷,脳挫傷後の認知障害,病理組織を検討した。高次脳機能障害の主因であるびまん性軸索損傷では,外傷の重症度に応じて認知障害および海馬の細胞損傷は重症化した。また,局所性脳損傷とされる脳挫傷においても,損傷は局所のみでなく,遠隔部位である海馬にまで及んでいた。さらに,外傷後の二次性損傷の負荷は,認知障害および海馬損傷を悪化した。今後の高次脳機能障害の治療として,神経保護療法および神経幹細胞の移植,再生が期待される。脳外傷による高次脳機能障害の診断には,画像所見のみから局所性,びまん性脳損傷という概念にとらわれず,外傷性脳損傷として包括的に把握し,さらに二次性損傷の影響を加味する必要があると考える。
key words: traumatic brain injury, experimental animal model, cognitive deficit, neuropsychological test, diffuse axonal injury

●高次機能障害の神経心理検査
小林 道子  鄭 秀明  清水 輝夫
 近年CT,MRI,SPECT,PETなど画像診断の発達により,神経心理学的な症状と神経解剖の対応が容易になってきている。一方で,頭部外傷の場合は,その損傷部位の同定が困難であることも多く,また画像上では明らかではないが,高次機能障害がみられる,といったことも稀ではない。脳外傷は脳挫傷を中心としたびまん性病変であり,その障害部位は前頭葉前部,前頭葉眼窩部,側頭葉に多い。また,直撃された損傷部位と反衝損傷の両側性の病変も多い。高次機能障害としては全般的な知能障害,前頭葉症状,記憶障害を呈することが多い。その他,局所の出血,挫傷による巣症状を呈する場合もある。ここでは,現在用いられている神経心理検査の概要を紹介し,頭部外傷例において,どのようなアプローチで高次機能障害を評価したらよいかを述べたい。
key words: head injury, neuropsychological test

●脳外傷後高次脳機能障害の画像評価
塩見 直人  宮城 知也  徳富 孝志  重森 稔
 急性期頭部外傷の画像診断法としてはCTが一般的であるが,脳外傷後の高次脳機能障害の評価には,より詳細な検査が要求される。高次脳機能障害は,画像的には損傷の局在部位の証明や脳血流や代謝情報などをもとに判定されることが多い。脳損傷の局在部位の確認には,微細な病変の描出や脳萎縮の程度の評価に優れたmagnetic resonance imaging(MRI)が有用である。高次脳機能障害の推移の検索には大脳半球の萎縮所見が参考となる。また,脳血流や代謝状況の評価にはsingle photon emission computer tomography(SPECT),positron emission tomography(PET),キセノンCT(Xenon CT)などが活用されている。これに加え,時間分解能に優れた脳磁図,脳波などの情報を有機的に統合させることによって,高次脳機能障害の病態解明がさらに進歩すると考えられる。
key words: higher brain function, neuroimaging, magnetic resonance imaging, single photon emission computer tomography

●「脳外傷による高次脳機能障害」の特徴
益澤 秀明
 交通事故などで頭部に外傷を受けて意識障害が生じると,“びまん性脳損傷”(DBI)を生じやすい。多くは一次性DBIとしての“びまん性軸索損傷”(DAI)であるが,低酸素脳症や局在性脳損傷に続発する二次性DBIのこともある。こうしたDBIにより大脳白質の神経繊維(軸索)が損傷し,数ヶ月後には脳萎縮と脳室の拡大を残す。また,局在性脳損傷そのものでもサイズのある場合は近接する脳室の拡大を来たす。こうした脳室拡大と白質減少に見合った精神症状が「脳外傷による高次脳機能障害」である。重症では,外傷後健忘状態のままの記憶・記銘力欠如,見当識欠如,自己洞察力の欠如,尿便失禁などを来たし,人格・性格変化による行動障害,すなわち,暴言,暴力,易怒性,感情易変,幼稚,自発性の低下などを示しやすい。見守りや介護をする家族にとっては辛い毎日となる。起立・歩行失調,構語障害や痙性片麻痺などの神経症状も伴いやすい。本障害は,事例毎に軽重の違いはあるものの,病態,症状経過,脳画像所見に共通性があり,しかも,専門家によっても見過ごされやすい。本障害を以前からの高次脳機能障害からは半ば独立したカテゴリーと理解することが,その見過ごしを防止し,ひいては,受傷者の社会的救済に貢献しよう。
key words: traumatic brain injury(TBI), psychosocial outcome, diffuse axonal injury, ventriculomegaly

●脳外傷による高次脳機能障害のリハビリテーション
大橋 正洋
 脳外傷の後遺症は多彩である。しかし社会参加を阻害するのは,身体的障害よりも,認知・情緒・行動の障害である場合が多い。この事実は,当事者組織の啓発活動などを通して,メディアや行政に取りあげられ,脳損傷後の神経心理学的症状や情緒・心理社会的行動障害などは「高次脳機能障害」という用語で一括される傾向がある。
 ところで高次脳機能障害は,リハビリテーション医学の分野では以前から治療の対象として考えられていた。しかし従来の対象者は脳血管障害が主であった。最近は脳外傷など,広範囲あるいはびまん性の脳損傷を原因とする場合が多くなっている。びまん性脳損傷後の高次脳機能障害は複雑で,評価や対応が困難である。  高次脳機能障害リハビリテーションの内容は,障害の正確な評価に基づく認知訓練,家族への情報提供,ライフステージに沿った各種ニーズに応えるための専門職による長期的援助,各専門機関との連携などである。
key words: traumatic brain injury, higer brain dysfunction, cognitive rehabilitation

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