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■特集 ニューロパチー:病態研究と治療法の進歩
●ニューロパチーのオーバービュー −全体像、ファクト、今後の展望−
服部直樹 山本正彦 祖父江 元
ニューロパチーでは病因や病態の解明に大きな進展が見られ、それに基づく有効な治療法が確立されてきており、ニューロパチーの診療体系は大きく変わりつつある。炎症性脱随性ニューロパチーでは、自己抗体が病態形成に果たす役割が明らかにされつつあり、IVIgの有効性が確立された。また、遺伝性ニューロパチーでは、近年のクローニング技術の進歩とゲノムプロジェクトによってそれらの原因遺伝子が次々に同定されている。髄鞘蛋白にとどまらず転写因子や神経フィラメントの変異も報告されている。ニューロパチーでは、軸索変性が神経機能を大きく左右することから、そのメカニズムと軸索再生を促す治療法の開発が今後の課題である。
key words: CMT(Charcot-Marie-Tooth), mutation, GBS(Guillain-Barré Syndrome), antibody, IVIg
●Charcot-Marie-Tooth病とその関連疾患 −病型と原因遺伝子−
早坂 清 沼倉周彦
Charcot-Marie-Tooth (CMT)病は最も頻度の高い遺伝性ニューロパチーで、運動および感覚神経が障害される。分子生物学およびヒトゲノム解析の進歩により、急速に病因遺伝子が解明されてきている。そのことから疾患の概念が変化し、従来の疾患分類が不適切なものになりつつある。一方、病因遺伝子の解明から遺伝子診断が期待されるが、病因遺伝子が多数存在し、同様な臨床症状、電気生理学的および病理学的所見を呈することから遺伝子診断は容易ではない。また、日本人では欧米の報告と異なり、17p11.2における遺伝子重複による症例が少なく、病因遺伝子が特定されない症例も多い。日本人に頻度の高い病因遺伝子の解明が待たれる。
key words: Charcot-Marie-Tooth disease, Dejerine-Sottas disease, congenital hypomyelination neuropathy, hereditary neuropathy with liability to pressure palsies, hereditary motor and sensory neuropathy
●家族性アミロイドポリニューロパチー(FAP) −その発生機序と新しい治療−
池田修一
家族性アミロイドポリニューロパチー(FAP)は地域特異性のある疾患ではなく、わが国の(遺伝性)ニューロパチーの中では比較的頻度の高い疾患である。原因となるtransthyretin(TTR)遺伝子異常は80種類以上が知られており、本疾患の臨床病理像は多彩である。アミロイド沈着機序で重要なことはTTRが安定なtetramerからmonomerへ解離することであり、ヒト血清中でTTR monomerを検出することができる。FAP患者血清中では野生型に比して変異型TTR monomerが有意に減少しており、おそらくアミロイド沈着として消費されている結果の反映であろう。治療は変異TTRの産生臓器である肝臓を移植により取り替えることであり、発病後5年以内に本手術を行うことが有効である。
key words: familial amyloid polyneuropathy, amyloid, transthyretin, liver transplantation
●Guillain-Barré症候群および関連疾患 −病態解明と治療法の進歩−
海田賢一 楠 進
Guillain-Barré症候群(GBS)の多くは先行感染後に惹起される免疫反応によって発症すると考えられている。これまで神経系に豊富なgangliosideに対する自己抗体が高頻度にGBS患者血清にみられ、同抗体はGBSの特定の臨床症状あるいは亜型と強い相関を示すことからその病態に深く関わっていると考えられている。最近では抗体を含めた液性免疫だけでなく、T細胞を中心に細胞性免疫反応の関与が検討されて発症メカニズムが少しずつ明らかとなっている。本稿では抗ganglioside抗体の病態への関与を中心に、GBSの治療の現状およびexperimental autoimmune neuritisにおける新たな治療法への模索についても最近の知見を基に解説する。
key words: Guillain-Barré syndrome, ganglioside, plasma exchange, immunoglobulin, experimental autoimmune neuritis
●慢性炎症性脱髄性多発ニューロパチー(CIDP)および関連疾患 −病態解明と治療法の進歩−
神田 隆
Chronic inflammatory demyelinating polyradiculoneuropathy (CIDP)は末梢神経ミエリンを標的とする自己免疫疾患で、四肢筋力の低下と感覚障害を主症状とし、慢性進行性あるいは再発寛解性の経過をとる。確定診断には主病態が脱髄であることを証明することが重要で、米国神経学会の診断基準が参考になる。現在、副腎皮質ステロイド剤、血漿交換、経静脈的免疫グロブリン投与の3つが治療の第一選択として市民権を得ているが、いまだにその病態に関しては不明の点が多く、サイトカインの病態への関与、血液神経関門破壊のメカニズム、標的となる分子の同定などが今後の重要な研究課題である。本症は治療可能な神経筋疾患の1つとして臨床家の腕の見せ所であるが、完治例は少なく、多くの例では年余にわたる加療の継続が必要となる。短期的な症状改善だけでなく、長期的に見た末梢神経保護の立場からの治療戦略の確立が急務である。
key words: chronic inflammatory demyelinating polyradiculoneuropathy, demyelination, cytokine, corticosteroid ,intravenous immunoglobulin
●末梢神経傷害に対する移植・再生医療 −現状と今後の展望−
伊藤聰一郎 高久田和夫 若林良明 四宮謙一
人工神経の作製には、(1)神経組織と適合性のよい素材を開発し、(2)神経架橋が形成されやすい構造をデザインして、(3)神経再生を促進する神経栄養因子、細胞接着性蛋白質を添加するか、(4)これらを産生する細胞を加える必要がある。本邦ではatelocollagenを用いたtubeがscaffoldとして有望である。再生軸索やSchwann細胞の足場として生体吸収素材のfiberを挿入するモデルも考案されているが、tube内壁の形状を改良するべきである。細胞接着因子として実験的にはlamininが多用されているが、生体に使用するにはlaminin peptideを結合させたscaffoldの使用が考えられる。また、既知の神経栄養因子にはまだ問題が多く、新たな神経再生促進因子を発見し、クローニングする技術の開発が待たれる。さらに、自己の反応性Schwann細胞をscaffold中で増殖させ末梢神経損傷部位に再移植する方法も考えられる。
key words: artificial nerve, atelocollagen tube, laminin peptide, neurotrophic factor, Schwann cell
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