臨床心理士 のコラム
Vol.2 山元加津子さん 講演会に行って来ました
特別支援学校の先生で神様みたいな人がいるらしい、そんな話を時々ネットなどで目にして気になっていました。私が行ったのはトータルヘルスデザイン主催の講演会で、山元加津子さん、通称かっこちゃんのお話の前に、まず「宇宙(そら)の約束」という映画が上映されました。
かっこちゃんが、学校のお友達(生徒さんのことをこう呼んでいます)と関わっている様子や、「昔から何で?何で?と不思議なことはとことん考えちゃうタイプで、今ね、こんなことを考えたの」と大竹しのぶさんのようなほんわかした口調で深い内容を語る姿、脳出血で倒れた元同僚に寄り添い、そこで起きた奇跡・・・感動的な映像ばかりで、観ている間中涙がポロポロポロポロこぼれました。ぜひ多くの方に観てもらいたい映画でした。
講演会では、生きている意味や私たちみんなの役割について興味深いお話をうかがいました。その中の2つをご紹介したいと思います。まず、かっこちゃんの映画「四分の一の奇跡」の元になったお話です。
昔アフリカでマラリアが蔓延し多くの人々が亡くなった時に、不思議とマラリアに罹らずに助かった人がいたそうです。その理由を調べたところ、赤血球の形がハンバーグを凹ませたような普通の形ではなく、鎌状だったことがわかりました。鎌状赤血球の人と普通の赤血球の人の間に子どもが4人生まれたとすると、1人は普通の赤血球、1人は鎌状赤血球、あとの2人は普通のと鎌状のと両方の赤血球を持って生まれてくるそうです。そして亡くなったのは普通の赤血球を持った人々で、助かったのは鎌状赤血球を持った人々だったそうです。鎌状赤血球だけを持つ人には障害が出てしまうそうですが、その人々がいてくれたからこそ、マラリアによって村が全滅しないで済んだということです。そのように、病気や障害を持って生きた方がいたからこそ、今の私たちが存在する…。
もし私が障害を持っていたら、大きな意味があると言われても、ではなぜ自分がそんな大変な役目を持って生まれてきたのだろう?もっと普通がよかった、と思ってしまうかもしれません。
そのようなみんなそれぞれの役割について、次にこんな話を聴きました。イエスキリストの最後の晩餐の場面でのやりとりを聴いて、かっこちゃんはこんな風に思ったというお話です。
「最後の晩餐の場面で、イエス様がユダに『あなたがなすべきことをしなさい』と言ったと聞いて、それじゃ裏切りなさいって言ってるようなもんじゃない?と 不思議だった。でもイエス様は十字架にかけられてあのように亡くなったからこそ、人々の心にずっと残って、人々を救ってくださってるんだと思ったの。そのためにはユダの裏切り行為が必要だった。それで、もしこのことを劇にするって学校のお友達に言ったら、イエス様の役をやりたいって言ってくれる子はたくさんいると思うの。でもユダの役やってくれないかなって言ったら、きっとみんな、えーやだよーって言うと思うの。そんな時私はどうするかな?って思ったら、 きっとこの子ならやってくれるって思う子に『この役はとっても大事な役でね、この役がいないと劇ができないの、引き受けてくれるかな?』ってお願いすると思うの。そしたらきっとその子は、しょうがないなーって言いながら引き受けてくれると思うのね。」
つまり、ユダの役も全体の流れの中では必要不可欠で、そしてその役を引き受けて生まれてきてくれた人は神様に「この人なら」と見込まれた人なのでは・・・ というお話でした。 自分はどんな役割を持って生まれてきたのでしょう?一見この世の損得で考えるとマイナスに思えることも、もしかして自分の大切なお役目かもしれません。その大切な役目を果たすためには、今のこの自分でなくてはならなかったのかもしれません。そう思うとコンプレックスに思っていること、なんであんな目に遭わなきゃならなかったんだろうと思う過去の出来事、全てのことが必要なことに思えてきます。
たとえば1つ私自身について思うと、子どもの頃からずっとトロイとか鈍いと言われ、からかわれることが多く、ぼーっとしているので仲間はずれにされたり、 先生からは普通にしているだけで怠けてると思われたり、結構傷つくことの多い子ども時代を過ごしました。大人になった今は多少マシになりましたが、自分では普通と思って話しているのに相当ゆっくりペースなのは変わりません。でもそのゆっくりペースが心理士という仕事には役立っていて、じっくり聞いてくれるという印象を持ってもらえたり、なんだか和むと言ってもらえたりもします。一見頼りなく見えたり、説得力がなかったりするので、もっとテキパキ動いたり話せたりする人に憧れる気持ちがありましたが、このかっこちゃんのお話を聞いて、これも私の大切な個性、お役目のために必要なこと、という思いが強くなりま した。
みんなそれぞれ得意なこと、苦手なこと、してあげられること、頼らなきゃできないこと、役割分担されているからこそ、みんなが大切な必要な存在なんですね。どうしてもこの世の価値基準から考えてしまってまだよくわからないこともありますが、このお話は心に留めておきたいと思いました。
(尾方 文)
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