脳のくせ、心のくせ
最近、脳科学者が脚光をあびています。脳科学者の書いた本が、とてもよく売れているそうです。テレビにも頻繁に出演し、脳についてやさしく解説しています。一般の方々が難しい本を読まなくても、脳とはどんなものかを理解するうえで、とても役立っていると思います。以前は、脳についてやさしく解説した本は、時実先生のご著書くらいだったような気がします。学者は、やさしく一般受けするようなものを書いてはいけない、という風潮があったようです。
ある本が売れると、それに続けとばかり、今まで脳の本など関係ないという顔をしていた出版社まで、脳の本を出版しだします。アダルト物を出版している出版社から、どぎつい表紙で登場すると、本当はすばらしい内容なのに、それが薄っぺらに感じられます。著者にとっても、つらいところです。
これらの脳の本を読むと、すべてを脳で説明しようとしているのではないかと思わされることがあります。ある質問に対して、脳のモードを変えればいいのです、という答えがありました。精神科領域から考えると、変えることがとても難しいわけです。
ゴルフのスィングについて考えて見ましょう。レッスンを受けて、言われたことをしようとすると、かなり違和感があるものです。自分では、ものすごく今までと違ったことをやっていると思えるのですが、周りで見ていると、全く変わっていないのです。テレビでゴルフのトーナメントを見ていて、顔が見えなくても、スィングを見れば誰だとわかるように、スィングは、その人その人で違います。あるプロの子どもの頃のスィングの写真と現在の写真を比較すると、本当にそっくりで驚かされます。その人の個性のあるスィングを変化させることは、とても困難なことです。
これは、ある人の考え方を変化させることが大変難しいことと同じだと思います。同窓会が卒後30年ほどたって開かれて、昔の友人に会って見ると、顔や体型は変わっていても、しぐさや考え方は、全くあのときのまま、ということに驚かされます。そういうの以前と全く同じだね、とか、それはあの人らしいね、など、元元の性格などは、変わっていないものです。脳のくせや心のくせは、なかなか変化しないようです。長年かかって出来てきたことを変えることは、本当に難しく時間のかかることです。
うつは、心の風邪と言われることがあります。内科に行って、薬を飲めば、簡単に治ると思われていたとしたら、困ったことです。脳のシナプス部位での異常を、薬でぱっと変化させればいいといわれても、そう簡単に変化するものではないようです。うつが簡単に治ると思われているとしたら、そのことがうつをより遷延化させてしまうかもしれません。
来月、当社から「まんが うつと向き合う」が出版予定ですが、著者は長い長い治療期間を経て、現実世界へ一歩ずつ踏み出し始めました。自身のこころの問題を、治すのではなく、折り合いをつけて抱えていくのだ、ということを私たちに教えてくれます。
復職を考えると、そうゆっくりと治療期間はとれない、ということもあるでしょう。会社によっては、ちゃんと治ってから復職してほしい、と要求することもあると言います。では、長い長い治療期間を、企業は待っていてくれるでしょうか。長い治療期間が認められる社会状況が出来てくれば可能でしょうが、現在は、うつ病で長期間休むことは、かなり難しいようです。
変化することがいいのかどうか。変化しないほうがいいこともあるでしょう。社会環境が徐々に変化すると、少しずつ地球も変化をはじめるのでしょうか。地震や気象の変化は、望まれていません。南極も北極も、変化しないでほしいわけです。人間が作ったものを変化させることは、簡単にできることでしょう。ですが、地球上の自然の環境のように人間が作ったものではないものを変化させようとすることは、どうなのでしょうか。
アメリカは、changeを選択するのでしょうか。宇宙環境をchangeすると、その影響が地球に及んでくることになるのでしょうか。良いほうへの変化は、本当に難しく時間がかかりますが、悪いほうの変化は、かなりスピードが速いものです。
そんなに急いでどこへ行く? まあ、ゆっくりやりましょう!!
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