同時通訳、通訳、編集、校正
年取ってきたせいか、通訳を頼まれると、かなり厳しい状況になります。若いときは、外人の方が5分くらい話しては、その内容を通訳し、また次に進んでいけました。ところが、最近では、いざ、通訳をしようとすると、最初のほうの文脈を思い出せなくなります。そこで、外人の方に非常に短い時間で区切ってもらうという羽目になってしまいます。また、お話になっているご当人も、こちらが通訳をやっている間、文脈を記憶していて次に進むのですが、前の文脈を、あれ、と言う感じで思い出せなくなることがあるようです。人と話していて、電話で中断されたりすると、あれ、さっき何を話していたのかな、というのと同じですね。
どちらかというと同時通訳のほうが、中年向きです。通訳では、内容を把握しながらわかりやすいように翻訳していきます。何を言いたいのかを伝えていかなければなりません。同時通訳の場合は、その場その場考えずに進んでいきます。何しろ、内容を考えているひまがありません。間違っていても間違いも訂正できませんし、よくわからなくても、適当につないで、最後に、ヤア、とばかりに何か言葉を入れて、なんとなくつじつまを合わせます。最近、外国の先生のご講演がときどきあり、その講演を日本語の原稿にすることがたびたびあります。その場合、同時通訳の日本語をテープ起こししてみても、ほとんど使えません。英語をテープ起こしして、それを翻訳しなければなりません。
出版をする場合、編集者は、お原稿を読み、内容を吟味し、どのようなレイアウトにしようかと考えていきます。文脈を把握していくわけです。その原稿を印刷物になるようにまず初めに文字組みをします。これを初校ゲラと呼んでいます。この初校ゲラを校正するときは、文章を読んではいません。読んでいないというと変ですが、お原稿が正確に組まれているか文字面を見ていると言った方がいいです。読んでいると、間違いに気づかないことがあります。例えば「間違いに気づかいない」となっていても、それに気づかないことがあります。文字面を見ていれば、気づくものです。ですので校正をするときは、内容は頭にのこらない、というのが正解で、内容がよくわかったということですと、それは問題です。出版社では、内容を考えながら読む作業と、文字組をよく見ていく校正作業とを、交互にしていきます。
こう考えてきますと、内容や文意を理解しながら進めるという点で、通訳と編集作業は似ていますし、文意を取らずに進めると言う点で校正と同時通訳は似ている気がします。
当社から、メモリードクターと言う本が出ています。それによりますと、最初に記憶するときの記憶の仕方が、大変重要だそうです。最近では、記憶力のトレーニングの本やソフトがよく売れているようです。これも、高齢化社会になってきたからでしょうか。
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