LEAPとの出会い―治療を受け入れてもらうために― 後編
八重樫穂高
大雪の恐怖を抱えつつもいよいよニューヨークへと旅立ったわけだが、そんな悪条件の中で不幸中の幸いとも言えることがあった。それは研修会の参加者が大雪のために軒並みキャンセルをしたため、Amador先生とマンツーマンでの研修を受けられることになったのだ。この研修会はだいたい月に1回のペースで開催され、2日間にわたってLEAPの基礎から応用を学ぶ。参加者は1回あたり5組までという小規模なもので、LEAPについての研修に加えて、かなり個人的な相談をする場としても活用されているようである。我々のような治療者であれば、LEAPに関する疑問点などだけでなく、実際の臨床の中で困っていることを相談したりすることもできる。また、当事者の家族であればLEAPを学びながら、普段抱えている問題点に関して実践的で個人的なアドバイスをもらったりもできるのだ。今回は特殊なケースで、天候の問題やマンツーマンの指導ということもあって2日間の日程を1日に詰め込むことになった。
Amador先生に直接会ってなにを尋ねようかなど考えつつ、12時間を超えるフライトを経てニューヨークに到着した。留学中であった先輩医師が空港まで迎えに来てくださり、久しぶりの再会に話を弾ませながら、先輩宅へと向かった。ニューヨークは思いのほか除雪システムがしっかりとしているらしく、大雪から1週間程度しか経っていなかったが、街中の運転は心配しなくても大丈夫な程度であった。その日はそのまま先輩宅に一泊させて頂き、翌日を現地までの移動に使うこととした。翌朝、先輩とその家族に別れを告げ、空港まで戻ってレンタカーを借りた。LEAP Instituteのオフィスはニューヨークのジョン・F・ケネディ国際空港からさらに高速道路で1時間半ほど東へ向かった、Long Island島の先にあるRiverheadという街にある。その辺りは自然豊かな、とても静かで良い雰囲気の田舎町であり、オフィスのすぐ裏にはPeconick川という大きな川が流れていた。
運転中は多少の緊張はあったものの無事に宿泊先のホテルまでたどり着くことができた。そのホテルの隣には水族館があって、その入り口正面にある水槽でアザラシが寒空の下、気持ち良さそうに泳いでいたのが印象的であった。その日は比較的スケジュールに余裕があったため、周辺の散策や次の日の研修に向けて準備をしようと思っていたのだが、長時間のフライトによる時差ぼけと、慣れない海外での運転のため疲労困憊であったようで、チェックインするや否や泥のように眠ってしまった。
そして、いよいよLEAP研修の当日である。Amador先生とはメールでやり取りをし、オフィスで直接待ち合わせすることになっていた。オフィスの駐車場に車を停めると、先生もちょうど到着したところで、日本からはるばるよく来たねと、あたたかく迎えてくださった。その傍らには高校生くらいのかわいらしい女の子がおり、先生のご長女だと紹介を受けた。Amador先生はとても気さくな優しい方で、オフィスに入って早々、何冊かの著書をサイン入りでプレゼントしてくれた。私の方も山梨から持ってきていた伝統工芸品である印伝作りのメガネケースなどをプレゼントした。そのような始まりで研修自体はゆったりとした雰囲気で進んでいったが、私としては盛り沢山の内容であった。午前中はLEAPに関しての総論を一通り教わり、簡単なロールプレイなども交えながら講義が進んでいった。少し疲れたなというところで昼休憩となり、近くのメキシコ料理店で、先生の娘さんと3人で雑談しながら美味しいランチをごちそうになった。Amador先生は、世界中を飛び回って活躍されており、多忙な生活を送られているようで、現在は中東方面でのLEAP教育に力を入れているようであった。日本にはまだいらしたことはないけれど大変興味がおありとのことで、一度日本にも観光ついでに来ていただき、講演会などで直接、LEAPの話などもお願いできれば、というような話もしておいた。午後の研修はもう少し踏み込んだ内容となり、これまでに感じていた疑問や、翻訳に関するアドバイス、今後の展開などについても詳しく相談ができ、とても充実したものであった。その中でわかったことは、LEAPには公式のトレーニングマニュアルがあり、公認トレーナーになるにはライセンス取得が必要だそうである。そのトレーナーでもレベル1、レベル2という段階があるそうだ。日本人がLEAP Institute主催の研修会に参加すること自体、私が初めてだったようで、もちろんLEAP トレーナーはまだ日本には存在していない。今後私もそのライセンスの取得を検討していきたいと思ってはいるが、ほかに日本でも興味のある方があれば是非とも取得していただきたいものである。
今回の研修を通して私自身、非常にLEAPへの理解が深まり、また、Amador先生から特別にLEAPのトレーニングマニュアルやGAINアプローチのマニュアルなども頂くことができて大変有意義なものとなった。今後、日本でもLEAPをはじめとした病識に乏しい方への取り組みをどんどん進めていかなくてはと、改めて決意した次第である。そして、『病気じゃないからほっといて―そんな人に治療を受け入れてもらうための新技法LEAP』がその取り組みを充実させ、患者やその家族の目標達成にすこしでも役立つことを願う。
|