時間を味方につけよう
精神科福岡県職員相談室
中島美鈴
朝起きてから、身支度をして、朝ご飯を食べて、仕事に向かうために玄関のドアをあけるまで、あなたは何分かかっていますか。そしてその時間の中で、だいたい朝しなければならないことを終えることができていますか。
「ほんとはもっと丁寧に化粧する時間が欲しかったのに」
「時間があれば、朝食もシリアルじゃなくて、ご飯と納豆と味噌汁、焼き魚なんてあると最高なのだけど」
朝のこの時間帯について、「非常に満足していて余裕の朝を迎えることができています」と胸を張っていえる人が何人いるのでしょう。
日中は日中で、こんなことはないでしょうか。
職場では、仕事Aの処理中に、電話が鳴って急ぎの仕事Bが割り込んできた。仕事Bを処理していたら、仕事Cが舞い込んできた。
複数の仕事が一気に押し寄せて、頭の中はパニック寸前。もうどこから手をつけてよいかわからないし、ひとつの仕事に取り組んでいても、他の仕事が気になってしょうがない!
仕事帰りに友人と待ち合わせ。18時に会社から3駅離れたカフェで落ち合うことにしていたが、仕事を終えて、駅前の薬局に立ち寄ったら、前から欲しかったサプリを発見し、店員さんに説明をきくことに。ふと気づいたらもう18時! 遅刻だ!
夕方帰宅して寝るまでの時間も戦争です。
帰宅して郵便物とかばんと買い物袋を一旦置いたら、息つく暇もなく夕食の準備! といきたいところだけど、夕立ちで洗濯物が濡れてしまう! 大慌てでベランダに飛び出すと、その先で目に入った植木の手入れに没頭。気づくと台所の鍋がふきこぼれていた……。
気づけば秋。肌寒くなってきたから、そろそろ衣替え。でもこれがまた面倒くさい。やらなければと思うのに、ずるずる先延ばし。
夜は夜で、夜更かしなどせず、早く寝てしまえばよいのに、いつまでもだらだらテレビを見たり、インターネットをしたり、よせばいいのにお菓子まで食べて……翌朝は案の定、眠くて起きられず、食べ過ぎの胃はムカムカもたれてる……。
さあ、いかがでしたか? 心当たりはありましたか?
これらは、全て「時間管理」という概念に関するものです。ビジネスの世界では「タスク管理」とか「スケジュール管理」とも呼ばれています。
時間に追われる生活から、時間をきっちり管理して、味方につける生活にできたら、毎日がどんなに素晴らしいでしょう。
しかし、時間を管理することに手こずっている人は、予想以上に多いようです。時間を管理することは、実は多くの能力を必要とするからです。
- スケジュールややるべきことを書き留めておくツールを決めたら、それをなくさずにいる。
- そのツールを毎日忘れずに見返して、スケジュール通りにこなす。
- やるべきことを箇条書きにしてリストアップする。
- 約束の時間や締め切り期限から逆算して実行する日時を決める。
- 大きな複雑な仕事を、小さな仕事に分解することができる。
-
気乗りしない仕事に対しても、自分でモチベーションを高めて挑む。
- 複数のやるべきことに優先順位をつける。
ざっと書き出しただけでも、これだけあるんです。これらが全て機能して初めて時間を味方につけることができるのです。
こうした時間管理が苦手とされるのは、大人のADHDの方です。ADHDの方が無理なく上記の1〜7の力をつけていけるよう構成されたのが、今月(2015年8月)に発売されたばかりの翻訳書『成人ADHDの認知行動療法』です。
大人のADHD の特徴は次のようなものです。身に覚えはありませんか?
- 書類の作成などやらなくてはならないことがある時に限って、部屋の掃除を始めたりテレビを見たりして、別のことばかりしてしまう
- バスや電車、映画館などじっと座っていなければならない場面で、苦痛や退屈をかなり感じてしまう
- しょっちゅう物を失くして、探してばかりいる
- 期限のある振り込みや書類作成、手続きが苦手。いつも期限ギリギリで、間に合わないこともある
- やることが多くてどこから手をつけていいかわからず、常に追われてパニックだ。そういうとき、結局どれも中途半端になるか、全てを放棄して現実逃避したりする
- その場の感情や思いつきで行動してしまうことが多く、あとで後悔する
- 人と待ち合わせすると、遅れてしまうかギリギリになってしまうことが多い
- 次の日早く起きなくてはいけないとわかっていてもついつい夜更かししてしまったり、仕事の日でも遅刻したりするなど、生活リズムについて深刻な悩みがある
- そんなに話したいわけでもないのに、気づいたらしゃべりすぎてしまっていることがよくある
- そそっかしくミスが多い
- 忘れ物をすることが多い
- 人の話を最後まで聞かずに、遮って話し始めてしまう
「あてはまるかも!」と思われた方や、時間をもっと味方につけたい方に、翻訳書『成人ADHDの認知行動療法』はおすすめです。前半は、大人のADHDの特徴や診断、理論、併存症に治療法、事例などが書かれている専門家向け、もしくは一般書よりももう一歩知識を深めたい方向け。後半は、大人のADHDの集団認知行動療法用のワークブックとリーダーズマニュアルになっています。クリニックの診療の中で、主治医と共に1章ずつ取り組むワークブックのように使われてもよいでしょう。お一人で、セルフヘルプとして用いるのもよいでしょう。デイケアなどのグループで時間管理について学ぶグループやADHDグループを作って、集団用ワークブックとして用いるのもおすすめです。
|