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星和書店
今月の新刊 next
内なるデーモンを育む

内なるデーモンを育む

ツルティム・アリオーネ 著
岡田愛、河野一紀、酒井謙輔、竹村隆太 訳

四六判 並製 384頁
ISBN978-4-7911-0857-2〔2013〕
定価 2,625 円(本体 2,500 円)

デーモンとは、うつ、不安、嗜癖、恐怖、強迫観念、慢性疾患など、個人の内的平和を阻害するすべての妨害物のことである。

著者は、仏教の教えの基本にある「思いやり」と「利他主義」を、個人的に内的平和をもたらすための手段として用いるよう提案する。そのための具体的な方法 として、偉大な女性仏教指導者マチク・ラプドゥンの伝統的な術(すべ)のエッセンスを失わず、かつ現代の西洋社会にも違和感の少ない、現代心理学の方法を も取り入れたやり方を著者は編み出した。それが本章で紹介されている「デーモンを育む」という方法であり、仏教やチベットの宗教的行に関する知識を一切必 要としない「5つのステップ」からなる。

  雑誌の最新号 next
精神科治療学
定価 3,024
月刊 精神科治療学 第28巻10号

特集:行動制限の実際と最小化に向けての取り組み

隔離や身体拘束といった「行動制限」を適切に行うための決定版。行動制限のなかでも隔離や身体拘束は法的遵守のみに関心が向いてしまいがちであるが、最近の考え方や実際を取り上げ、また不必要な行動制限をしないための取り組みを紹介した。具体的には隔離の実際、隔離室の構造、身体拘束の看護、拘束の合併症(静脈血栓塞栓症を中心に)、認知症・老人施設・福祉施設での行動制限、リエゾン場面での行動制限、薬物療法、脱エスカレーション、感覚調整室、医療観察法病棟での取り組みを紹介。明日からの臨床に役立つ必読の特集。
JANコード:4910156071037

臨床精神薬理
定価 3,045
月刊 臨床精神薬理 第16巻11号

特集: 拒薬・服薬困難患者への対応

本特集では、精神疾患における拒薬・服薬困難を引き起こす背景と今後の課題について展望し、統合失調症入院患者の拒薬に対する対応、精神科薬物療法における看護師の役割、認知症患者に対する対応、救急医療の現場における対応、拒薬・服薬困難患者に対する剤形選択、強制医療の倫理的側面など、様々な点について解説した。
ISBN:978-4-7911-5193-6

精神科臨床サービス
定価 2,310
季刊 精神科臨床サービス 第13巻4号

特集:地域ケアのグッドプラクティス

精神障害者を地域で支えるためには,医療と福祉の「包括的」な「連携」,そして「ネットワーク作り」が必要と繰り返し説かれます。しかし,どうすればそれが実現できるかについてはマニュアルやガイドラインがあるわけではなく,先行する実践から学ぶことが唯一最善の方法です。本特集では地域ケアの「グッドプラクティス(優れた取り組み)」を全国から集め,その実践知をお伝えします。複雑化,細分化を続ける制度を理解するため,「誰にでもわかる地域生活支援制度」をQ&Aで構成しています。
ISBN:978-4-7911-7152-1

臨床精神薬理
定価 6,195
精神科治療学 第28巻 増刊号

物質使用障害とアディクション
臨床ハンドブック

アルコール・薬物依存といった物質使用障害や、ギャンブル依存、インターネット依存といった行動のアディクションに対する現時点での最も包括的で最新の臨床実践集。これら、今日的な精神障害に苦手意識を持つ精神医療現場は多いと思われるが、本書を読めば、基本的な知識が得られるのみならず、必ずしも自分のところで治療することが難しくても、適切な支援資源が何かがわかるので、そこへつなげることができ、結果として患者に最善の治療を提供することができるようになる。執筆陣は経験豊富な臨床家、支援者を揃えた。わが国の物質使用障害とアディクション臨床のスタンダードとなる書。
JANコード:4910156081036

今月のコラム

遊佐安一郎先生の2日間ワークショップ 精神科診断学概論
今月のコラム
相手を知るということ
産業カウンセラー  林暁子

コラム執筆の依頼を受け、拙訳書『愛する人がうつ病になったときあなたはどうする?―実践的・共感的支援ガイド―』のあとがきに書ききれなかった内容でも書こうかと呑気に構えていましたが、改めてメールマガジンのバックナンバーで各先生方がご自身のご専門と絡めた非常に興味深いコラムを執筆なさっているのを目の当たりにし、頭を抱えてしまいました。というのは、訳書中に登場する、とあるロックスターに関連する話題だったので、こんなに卑近なテーマにして良いものだろうかと考え始めてしまったのです。

そこで今回は私が従事している場面でよくあるやり取りからお話をしたいと思います。

現在、主に従事している就職支援関係の現場でよく尋ねられるのは、カウンセラーはどんな仕事なのか、どうしたらなれるのかといった質問です。元々人気のある職業ですし高い関心を得られていることは喜ばしいことですが、誤解が多いという印象が強いです。特にキャリアカウンセラーは比較的敷居が低い印象が強いせいか、将来的に挑戦したいという希望を持つ方が多いようです。

他人の人生を左右する責任

キャリアカウンセラーが行うのはキャリア開発・形成の支援、具体的なところで言えば相談を通じて今後の方向性を定めたり、応募書類の添削や面接対策等を通じてクライエントが就職するまでのサポートが現状としては大多数だと思います。そのため臨床心理士と異なり専門的な知識を身につける必要もなく、健康な人を相手にするので気軽だというイメージが多いようです。

ですがちょっと待って欲しいのです。生活の必要に迫られたり、社会参加したいと考えれば、たとえドクターストップが掛かっていたとしても就職を希望する人がいるのです。つまり共通項はあくまで「就業を希望する」ということだけで、その他の要素についてはあらゆる人が該当する相談場面なのです。そのためメンタルヘルスのみならず基本的な心理学的知識に詳しくないカウンセラーが対応を誤り、トラブルが生じることもままあります。精神疾患の基礎知識を持たず、クライエントから自己申告があった際に病名から想起されるイメージ(例えば統合失調症の妄想等)が先行してクライエントの現状をきちんと把握できない同業者も残念ながら見受けられます。

クライエントをきちんと把握できない、対応を誤るということは本来より良い方向を進むはずだったクライエントを人生の分岐点でカウンセラーがミスリードするということになりかねません。他人の人生を左右するという非常に重い責任があることを常に自覚しなければ、厳しいようですが存在意義はないと言っても過言ではないでしょう。その意味ではキャリアカウンセラーは必ずしも敷居が低いものではなく、臨床心理士や医療従事者と同じくらい責任の重い職業なのです。

相手の気持ちを汲み取る

様々な場面で思い出す幾つかの言葉があります。学生時代数えるほどしか授業を履修する機会がなかったのですが、馬場禮子先生の一言がその中でも一番忘れられません。大分昔のことなので正確な表現までは覚えていませんが、確かこんなことをおっしゃったと思います。

「(臨床心理・カウンセリング等は)人を助けたいという気持ちだけではできない。出歯亀根性がないとできない」

あまり良い表現ではないかもしれませんが、趣旨としては奉仕的精神だけでは成り立たず、窃視的と表現できるほどの関心をクライエントに対して持ち、相手を理解しなければならないということだと私は理解しています。主訴が同じものであっても、その人によって状況も気持ちも異なります。相手を理解すること・相手の気持ちを汲み取ることは非常に重要です。このことは私がメインで用いている解決志向療法でも「知らないと言う技法」として知らない姿勢とはセラピストが強い、純粋な好奇心を持っていることを伝える態度と行動である(Anderson&Goolishian, 1992)として重要視しています。

「誰かを励ましたい。そのことで役に立ちたい」という気持ちからカウンセラーに関心を持つ若い方もいらっしゃいますが、励ますことが本当にクライエントにとって必要なことなのかは相手を知らなければ判断できないことです。励ますことがもし逆効果だったらどうなってしまうのでしょうか。そこまでの視点が必要となります。

もちろん専門家でなくても相手を知ること・相手の気持ちを汲み取ることは大切なことです。うつ病に限らず愛する人の力になりたいと思った時、相手の気持ちを汲み取ること、つまり相手の気持ちを忠実に描写することは、相手が感じていることを理解し尊重をしていると相手に伝える方法なのです。

愛する人の言葉に耳を傾けた際、どんな気持ちでそう言っているのかをちょっと考えてみる余裕を持ってみませんか。きっとその後のやり取りはいつもとは変わってくるのではないかと思います。

〈文献〉
Anderson, H., & Goolishian, H. (1992) The client is the expert: A not-knowing approach to therapy. In S. McNamee & K. J. Gergen (Eds.), Therapy as social construction (pp25-39). London:Sage.


林暁子先生の本、好評発売中

愛する人がうつ病になったとき あなたはどうする?―実践的・共感的な支援ガイド
(ミッチ・ゴラント,スーザン・K・ゴラント 著,加藤敏 監訳,林暁子 訳)

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